AmazonのCTO「AIが機能したら誰も『AI』と呼ばなくなる」 その真意を考察

AI要約

AIの普及に伴い、AIの機能は目立たなくなるだろうという見解が示された。

AIの歴史から考えると、人間が能力を向上させるために機械が作業を自動化する発想は古くから存在していた。

AIという言葉が生まれる前から、機械による人間の脳の模倣や作業代行といった考えが存在しており、AIの発展は長い歴史の中で進んできた。

AmazonのCTO「AIが機能したら誰も『AI』と呼ばなくなる」 その真意を考察

 「AI(人工知能)が機能し始めたら、もはや誰もAIと呼ばなくなるだろう」

 Amazon.comでCTO(最高技術責任者)兼バイスプレジデントを務めるヴァーナー・ボーガス(Werner Vogels)氏は、Amazon Web Services(AWS)の日本法人アマゾンウェブサービスジャパンが2024年6月20~21日に千葉県の幕張メッセで開催した年次イベント「AWS Summit Japan 2024」の基調講演でこう切り出した。

 基調講演のテーマは「AWSと創る次の時代」ということで、AWSの日本法人首脳幹部と共にパートナーやユーザー企業のキーパーソンがスピーカーを務めた。そうした中で、AWSの親会社であるAmazon.comの CTOであるボーガス氏が日本の年次イベントでスピーカーを務めるのは、筆者の記憶では初めてのことだ。これはすなわち、AIの開発および活用はAmazonグループを挙げての取り組みであることを物語っている。

 今回はそのボーガス氏の話の内容にフォーカスし、私たちはAIをどう捉えて使っていけばよいのかについて考察したい。

 「AI、特にこの1年半ほどで注目度が一気に高まった生成AIをビジネスやマネジメントにどう活用するかといった話が今一番ホットかもしれない。しかし、もっと大きな観点で私たちはAIをどう捉えて使っていけばよいのかについて、原点に立ち返って考えてみた」

 こう話した同氏は、AI研究の第一人者であるジョン・マッカーシー氏の発言から冒頭で紹介した言葉を取り上げた。この言葉が「原点に立ち返る」とはどういうことか。

 「実は、AIはこれまで数十年にわたってさまざまな切り口から研究開発が行われてきたテクノロジーで、既に私たちの身の周りに溶け込んでいる。例えば、画像認識やフォーキャスティング、レコメンデーションなどだ。だが、これらのテクノロジーは誰も今ではAIと呼ばなくなっている」

 さらに、同氏は歴史を大きく遡って次のように語り始めた。

 「こうした話はおよそ2500年も前からあった。ソクラテスやプラトン、アリストテレスといった哲学者は、当時から『作業を自動化できる機械を作れば、人間の能力をさらに向上できるのではないか』と話していた。『人間は脳が発する指令によって制御されて動いている。その仕組みを機械で実現できないか』と考えたわけだ。プラトンは機械を人型ロボットに見立てて家事などをするイメージを描いていたそうだ。つまり、さまざまな作業を人間に代わって機械がやるという発想が当時からあったわけだ」(図2)

 そして、時を経て1940年代、そうした機械の原型となるコンピュータが誕生した。それとともに、「人間の脳をエミュレーション(模倣)する」というテクノロジーが本格的に研究開発されるようになった。その時に「機械は考えることができるのか? という問いに真剣に取り組もうではないか」と呼びかけたのが、数学者であり哲学者でもあるアラン・チューリング氏で、それを判定するための「チューリングテスト」を1950年に発案した(図3)。

 そうした経緯の下、1956年に米国ダートマス大学でスタートしたプロジェクトにこの分野のオピニオンが集まり、そこで正式にAIという言葉が使われるようになった。ボーガス氏によると、集まったオピニオンリーダーの中心は哲学者だったそうだ。