大阪のディープな魅力にどっぷり 異色ツアーに記者も参加

AI要約

新今宮エリアを舞台にした多様性に満ちた街歩きツアーが人気を集めている。日雇い労働者街や繁華街を訪れ、地域の魅力を感じることができる。

ツアーは漫画家のありむら潜さんがガイドを務め、労働者支援をテーマに幅広い視点で地域を紹介している。参加者は社会福祉を学ぶ学生など様々で、地域の歴史や現状を学んでいる。

参加者数も増えており、地域のイメージが変わってきている。今後も理解を深めるための活動が続けられる予定。

大阪のディープな魅力にどっぷり 異色ツアーに記者も参加

 大阪市の西成区と浪速区にまたがる地域を歩き、街の多様性に触れるツアーが好評だ。日雇い労働者の街として知られる「あいりん地区(通称・釜ケ崎)」や、通天閣がシンボルの繁華街「新世界」などを訪れる。ディープな魅力に満ちたツアーに参加した。

 地域の中心にはJRと南海電鉄が交差する新今宮駅があり、ツアーでは一帯を「新今宮エリア」と呼ぶ。日雇い労働者による暴動が起こった時代もあって治安の悪いイメージが残る一方、近年は日雇い労働者向けだった簡易宿泊所を利用するインバウンド(訪日客)が集まる。2022年には星野リゾートの都市観光ホテル「OMO7大阪」が開業し、観光の側面でも注目されつつある。

 5月中旬の週末、新今宮駅の近くにツアーの参加者約15人が集まった。ツアーの名称は「新今宮スタディツアー」。地元のまちづくり会社や労働者を支援するNPO法人が企画しており、チラシに記された言葉は「来たらだいたい、なんとかなる。」。

 ガイド役を務めるのは、漫画家のありむら潜(せん)さん(72)。西成労働福祉センターの元職員として支援活動に携わりながら、労働者の「カマやん」を主人公にした漫画を描き続けている。04年から独自に労働者支援をテーマにしたツアーを催しており、参加者は社会福祉を学ぶ学生らが中心になっている。

 新今宮スタディツアーは23年4月に始まった。従来の労働者支援だけではなく、以前から存在していた幅広いテーマを扱うのが特徴だ。テーマごとに“聖地”を設け、「娯楽」なら通天閣や串カツ店で知られる新世界、「大阪商業」は商売繁盛を祈願する今宮戎神社がある恵美寿西、といった具合だ。

 参加者は労働者支援や福祉とは無縁の人も多い。この日に参加した大阪府茨木市の無職の男性(72)は「地名は知っていても、どんな場所なのか詳しく知らなかった。興味を持ったので参加してみた」と話した。

 ツアーは宿泊場所に困った労働者らが利用する「あいりんシェルター」のように関係者以外は立ち入りできない施設も巡り、参加者の写真撮影を禁止する場所もある。出発前にスタッフが「地元の人から『何しに来たんや』と声を掛けられるかもしれませんが『勉強に来ました』と答えてください。労働者の生活の場でもあるので、敬意を持った発言を」と呼びかけていた。

 集合場所から出発して一行が南に向かうと、建て替えに向けて閉鎖された労働施設「あいりん総合センター」の前に差し掛かった。かつて日雇い労働者を募り、そのまま現場に向かっていた拠点だ。ありむらさんは「1970年代から80年代は労働者の流入ラッシュでした。90年代にバブルが崩壊すると仕事にあぶれる人たちが増え、暗黒の時代でした。大変しんどかった」と当時を振り返った。

 環境改善を求め、日雇い労働者による暴動事件なども複数回起きた。ありむらさんは、暴動が発生した場所を案内して「これで『怖い街』のイメージがこびりついてしまったのが、悲劇の始まりでした。穏やかな街に変わった今は、道路のあちら側のパブでは夜にジャズライブが開かれています」と説明した。

 徒歩による約2時間のツアーでは、訪日客らの予約でいっぱいのホテルも見学。串カツ店や将棋クラブが並ぶ商店街「ジャンジャン横丁」を通り抜けた後、観光客でにぎわう新世界の通天閣の真下がゴール地点だった。

 ありむらさんは「新世界のコンセプトは『一生懸命、遊ぶ街』だそうです。00年代からは『串カツの街』になり、今では『インバウンドの街』になりつつある。路地が一つ違えば全く別の街になる。それが新今宮なんです」と締めくくった。

 このツアーには5月23日までに延べ367人が参加した。6月末まではJR西日本の観光キャンペーンと連携した特別ツアーを用意している。ありむらさんは「参加者数は予想以上で『新今宮周辺のイメージが変わった』という反応がうれしい。これからも正しい理解の積み上げをしていきたい」と意欲を示している。

 参加費3000円。申し込み方法や日程などの詳細は、新今宮ワンダーランドのホームページ(https://shin-imamiya-osaka.com)から。【小坂剛志】