「そこら中に現金が落ちているようなもの」 1950年代の朝鮮戦争特需でも問題になった金属盗、なぜまた増えた?

AI要約

金属盗の増加について、金属価格の高騰や需要の増加が背景にあることが指摘されている。

茨城県では太陽光発電施設が狙われており、銅などの金属が盗まれる事例が多発している。

金属盗に対抗するために、施設側では防犯対策を強化し、被害復旧に多額の費用が必要となっている。

「そこら中に現金が落ちているようなもの」 1950年代の朝鮮戦争特需でも問題になった金属盗、なぜまた増えた?

 ガードレール、側溝のふた、水道の蛇口や銅線ケーブル…。どこにでもあるような金属が、カネになる。金属価格が高騰しており、こうしたものを盗む犯罪者にとっては「そこら中に現金が落ちているようなもの」(捜査関係者)らしい。昨年の金属盗の認知件数は約1万6千件。統計を始めた2020年の約3倍である。

 実は、朝鮮戦争特需の影響で金属価格が高騰した1950年代にも金属盗は多発し社会問題になった。その後、被害は減少したはずだが、なぜ今再び増加しているのか。

 被害が全国ワーストの茨城県で取材を進めると、実態や課題が見えてきた。(共同通信=奥林優貴)

※筆者が音声でも解説しています。「共同通信Podcast」でお聴きください。

▽太陽光発電施設の被害

 茨城県日立市。住宅地が広がる山麓を車で15分ほど走り、木々が生い茂る狭い道を進むと、突如として太陽光発電施設が現れた。山に囲まれた広大な敷地に発電パネルがびっしり並ぶ。昨年3月、この施設に敷設してあった銅線のケーブル計3・9キロメートル(時価約1100万円)が盗まれそうになった。今年になり、カンボジア人の男2人が逮捕、起訴されている。

 施設の担当者に話を聞いた。それによると、男たちは施設の裏にあるフェンスを破って侵入した。異常に気付いた警備員が110番し、警察官が駆け付けた時には男たちの姿はなく、ケーブルが積み込まれた車が残されていた。ケーブルを切断するのに使ったとみられる専用工具もあった。調べると、施設内のケーブルほぼ全てが切断されていた。

 担当者は「もっと警備に投資すべきだった。泣き寝入りしかできない」と肩を落とす。施設を運営する会社は事件後、防犯カメラを増やした。侵入する人を認識し、警報音を鳴らすとともに管理者に通知が届く。ケーブル切断を感知するシステムも導入した。被害復旧と合わせ、費用は約4500万円にも上った。この会社は、福島県や千葉県の施設でも同様の被害に遭ったという。

 なぜ太陽光発電施設が狙われるのだろうか。茨城県警によると、立地の特性上、特に夜間は人目につきにくいことに加え、銅を筆頭とする金属価格の高騰で稼げるからだという。非鉄金属大手の「JX金属」(東京)によると、銅の月平均価格は約3年前から高止まり。世界的な脱炭素の流れを受け、ガソリン車に代わって普及しつつある電気自動車(EV)などの用途で需要が高まっている。銅は電気を通しやすいため、電線やEVモーターの素材となっているのだ。2024年5月には過去最高値の重さ1キロ当たり約1640円を記録。価値は4年前の2・5倍以上に跳ね上がった。