カネがあっても「幸せな老後」はやってこない…要介護者になった「おひとりさま高齢者」を待ち受ける悲惨な現実

AI要約

老後の幸せを送るためには、孤独を感じにくい環境を作ることが重要であり、人間関係の希薄化が大きな課題となる。

若い頃から人付き合いを大切にすることが、老後における人間関係の維持や充実した生活につながる。80代以降になると孤独感が深まりやすくなるため、介護の質を保つためにも積極的な人間関係の構築が重要となる。

入居する施設やコミュニティによっても人間関係の違いが現れるため、自ら積極的に関係を築くことや若い頃からのつながりを大切にすることが大切である。

幸せな老後を送るにはどんなことに気をつければいいのか。淑徳大学総合福祉学部教授の結城康博さんは「老後は孤独を感じやすくなるため『すぐに頼れる人』が周囲にいることが重要だ。介護施設に入る際は、身元保証人や緊急連絡先を求められる場合が多いため、親族に頼れない人は施設への入居を断られる場合もある」という――。(第2回)

 ※本稿は、結城康博『介護格差』(岩波新書)の一部を再編集したものです。

■「人間関係の希薄化」が老後の重要課題

 介護生活は経済状況に大きく影響を受けるのだが、「人間関係の希薄化」も大きな課題の1つである。

 筆者は、これまで多くの介護関係者に話を聞いてきたのだが、独居高齢者、老夫婦高齢者、家族同居高齢者において、それぞれの「孤独」があり、それによって介護生活も左右される。これは在宅であれ施設であれ違いはない。なぜなら要介護者となれば、自分で自由に体を動かすことができず行動範囲が縮小していくからだ。

 認知症ともなれば、当然、人間関係は健常時と比べて希薄化していく。心身の機能低下が避けられない要介護者は、どうしても「寂しさ」を感じる時間が増えてしまいがちになる。そして、人間関係も希薄化していくなかで「生きがい」「充実感」なども減退していく可能性が高くなる。

 例えば、特別養護老人ホームや有料老人ホームの生活相談員の話によれば、入居高齢者が元気か否かは、定期的な面会人がいるか否かで違うという。コロナ禍で家族らの面会制限があった時期を除けば、家族や友人が適宜、面会に来る高齢者は介護生活も充実しているそうだ。しかし、全く面会人が来ない高齢者は、それなりに元気ではあっても寂しげな表情を目にするとのことである。

 安心して介護生活を送るには、一定の人間関係が継続・維持されていることが鍵となる。

■若い頃から人付き合いをしているかが重要

 しかし、要介護者となっても親族であれ友人であれ定期的に交流を保つには、若い時から人間関係の重要性を認識し「人付き合い」を心がけておく必要がある。確かに、要介護1・2となり、デイサービスなどを利用することで、新たな要介護者同士の人間関係を構築できる機会はあるが、要介護者となって、新たな人間関係を構築していくことは非常に難しい。また、有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅(サ高住)に入居することで、高齢者同士で友人をつくることもできるだろう。

 しかし、要介護者同士で人間関係を構築するのには若い時から「人付き合い」の重要性を心がけていることが不可欠である。仮に、若い時は人との交流を避けて過ごしていたが、高齢者となって急に生き方を変えるとしたら相当な努力が必要となる。

 寝たきりや常時車椅子といった中重度の要介護者ともなれば、新たな人間関係の構築はさらに難しくなる。もっとも、パソコンやSNSに精通している要介護者は例外かもしれないが。

■80代になると一気に孤独感が深まっていく

 内閣府資料によれば、年齢別にみると「孤独」を感じている割合は、70代がもっとも低くなっている。男性と女性を比べると80歳以上を除くと男性のほうが「孤独感」を感じやすい傾向だ(図表1)。

 このデータで興味深いのは、年齢を重ねるごとに「孤独感」を抱く割合が減少傾向であるものの、80歳以上となると一挙に上がっていくことである。高齢者といっても70代は元気であり心身ともに良好である者が多い。旅行、カラオケ、ゴルフなど趣味の活動をしたり、アルバイトなど仕事をしている人も珍しくない。

 しかし、80歳をすぎると心身機能の低下が際立つようになる。なお、生産年齢人口(15~64歳)層の「孤独感」と、80歳以上のその捉え方は、若干、異なると推察され「老い」「介護」「死」といった心情が複雑に重なり合っての「孤独感」であろう。そのため介護の良し悪しに関しては、本人の「感情」という主観的な側面も無視できず、「孤独感」に陥らないようにしていくことが明暗の分かれ目ともなる。