「すぐに忘れる」「お金を盗んだ騒ぐ」にも理由が。認知症の人はこんな世界が見える

AI要約

介護する娘が母の認知症に戸惑い、心が疲れていく様子や、認知症の人が見ている世界と介護者が見ている世界のズレについて紹介。

認知症の人が安心を得ることの重要性や、良質なケアのヒントが認知症の人の心理状態にあること。

認知症の人が同じことを繰り返す症状についての解説がされている。

「すぐに忘れる」「お金を盗んだ騒ぐ」にも理由が。認知症の人はこんな世界が見える

「母は介護する娘である私の存在を忘れていく。ケアしてあげたこともすぐに忘れてしまう。そんな母と私はどうやって向き合っていっったらいいかわからない。やりがいも感じられず心が疲れてしまう」

「認知症になってから、父は平気で嘘や言い訳をするようになった。あんなにきちんとしていた父だったのに……」

認知症の親を持つ人に話を聞くとこんな声が返ってきた。認知症=すべてを忘れてしまう、以前とは異なる人格になってしまう、と思いがちだが、果たして本当にそうなのだろうか? 著書『マンガでわかる! 認知症の人が見ている世界』(全3巻/文響社)は、漫画でわかりやすく、認知症の人が見ている世界や思考について解説している。認知症の「なぜ?」「どうして?」がわかることで、介護の視点や心理的ストレスも軽減されると、介護者にも評判の一冊だ。前編に引き続き、著者でもある理学療法士の川畑智さんのお話と、漫画(画/浅田アーサーさん)を一部抜粋、再編集でお届けする。後編では、認知症によくある症状の解説部分をご紹介する。

認知症の人が見ている世界を知ることは良質なケアのヒントになる

私はこれまで、理学療法士として数多くの認知症の人と接し、認知症の人の心理状態について模索してきました。そうした中でわかったことは、認知症の人の目に映る世界と、認知症でない私たちが見ている世界には、少しのズレがあることです。

例えば、80代、90代の認知症の人に年齢を聞くと、自分のことを40代、あるいはもっと若く答える方もいます。これは、今いる場所・日付・時間の把握が苦手になる「見当識障害」のせいで、自分の正しい年齢がわからなくなってしまうためです。

本書の第1章では、認知症で見られるさまざまな悩みについて、「認知症の人が見て

いる世界」と「家族やケアをする人が見ている世界」との差を、マンガでわかりやすく紹介していきます。各エピソードのあとには、それぞれの症状についてくわしく解説しています。

「認知症の人が見ている世界」を読むと、ご本人が戸惑い、不安や孤独感にとらわれ、がんばっていることがわかると思います。そうした心理の中に、良質なケアのヒントがたくさんあるのです。

認知症のケアでは、ご本人に安心してもらうことが重要です。ご本人が何を考え、何を

求めているかを想像できれば、どう接すればご本人に安心してもらえるかを考えられるようになります。認知症の人が安心を獲得できれば、徘徊や暴言、介護への抵抗などの行動・心理症状(BPSD)が和らぎ、ケアする側の負担を減らすことにもつながります。つまり、認知症の人と認知症でない私たち双方にとってメリットになるのです。

ただし、認知症の世界は、本人の心理状況や生活歴、性格なども複雑に関係していま

す。同じような世界が見えていても、どのような対応が適切かはその人によって異なり、「これが正解」というものはありません。こうしたマンガをヒントに、注意深く認知症の人のようすを見たり、話を聞いたりして、どう対応すれば安心を引き出せるかを柔軟に考えることが大切です。

【症状「何度も同じことを聞く」~短期記憶の低下~】