鹿児島県警の大罪 井口文彦 一筆多論

AI要約

鹿児島県警の元生活安全部長が内部情報を漏らし起訴された事件で、捜査書類を廃棄するよう促していた問題が浮上し、警察の信頼性に疑念が広がっている。

捜査における証拠の管理や送致の重要性が再認識される中、過去に未送致となった証拠が無罪判決をもたらした事例も報告されている。

警察は廃棄ではなく適切な管理が求められ、捜査における情報の適切な扱いと公正な審理の重要性が改めて強調されている。

内部情報を第三者に漏らした鹿児島県警の前生活安全部長が起訴された事件は、論点や事案が次々と増え、本質的な問題の所在が分かりにくくなっている。

本部長への反発か。組織健全化への内部通報か。隠蔽(いんぺい)はあったのか。警察庁が特別監察を実施した。

噴出した一連の問題はいずれも深刻だ。中でも、捜査書類などを廃棄するよう捜査員に促していた問題は、捜査機関としての良心の決定的欠如を感じざるを得ない。再審請求の道を意図的に塞ぐ、大罪である。

昨年10月に県警が内部で配布した「刑事企画課だより」。再審請求などの際に裁判所命令で未送致書類が露呈する事例があるとし、「警察に都合の悪い書類だから送致しなかったのではと疑われかねないため、未送致であっても不要な書類は適宜廃棄する必要がある」と促し、こう記した。

「再審や国家賠償請求等において、廃棄せずに保管していた捜査書類やその写しが組織的にプラスになることはありません!!」

1カ月後、県警は「必要なものは引き続き廃棄せずに保管管理する必要がある」などと修正した。県警は「内部で疑問視する声があったため」と説明したが、実際はネットメディアに文書が暴露され、警察庁の指摘を受けて、だった。

ここまで露骨な「隠滅指示」も珍しい。だが堂々と記載しているあたり、これが県警の本音であったのだろう。ネットに流出しなかったら、果たして自力で修正できただろうか。

人間は間違う。捜査も誤ることはある。後に新事実が判明したり、証拠評価が変わったりすることはある。それ自体は仕方がない。問題はその対応と救済なのだ。検察の有罪立証の構図にそぐわなかった資料が、再審の決め手になることが少なくないのである。

滋賀県の病院で呼吸器を外して入院患者を殺害したとして服役後、再審で令和2年に無罪となった元看護助手の事件では、滋賀県警が多数の証拠を検察に未送致だった。その中には、事件性そのものを疑問視する法医学者の聴取をまとめた報告書など、元看護助手に有利な証拠があった。再審公判の裁判長が「これが検察に送られていれば起訴されなかった可能性がある」とまで言及した、重大な証拠になったのである。

だから捜査に関する資料は、検察へ未送致の分も含め捨ててはならないのだ。警察組織にプラスかマイナスか―などで判断されてはならない。「たより」の記述は、警察の人権救済軽視を如実に物語っている。