悩ましい職場の体臭問題…注意されて「パワハラだ」と反発も 法的に正しい対処法は?

AI要約

フリーアナウンサーの川口ゆりさんが男性の体臭に関する投稿を理由に契約解除された件について、職場の体臭にまつわる相談が多数寄せられていることや、体臭に関するトラブルの例を示しながら、職場での体臭問題の複雑さを解説している。

体臭に関する問題は個々の感覚やバイアス、偏見にもよるため、一概に判断することは困難であり、対応には慎重さが求められる。

上司が部員の体臭問題にどう対応すべきか、パワハラを避けつつ改善を促す方法や、業務に支障があり懲戒に値する場合の対応方法についてもアドバイスがされている。

悩ましい職場の体臭問題…注意されて「パワハラだ」と反発も 法的に正しい対処法は?

先日、フリーアナウンサーの川口ゆりさんがSNSで「夏場の男性の匂いや不摂生してる方特有の体臭が苦手すぎる」と投稿したことを理由に、所属事務所が「異性の名誉を毀損する不適切な投稿行為が認められた」として、契約解除を発表した。

川口さんは男性に限定したことで波紋をよんだが、弁護士ドットコムには職場の体臭にまつわる相談が多数寄せられている。職場では体臭や、それを抑えるための制汗剤、香水をめぐるトラブルが性別に限らず生じているようだ。

ある相談者は「新人さんが入社し研修にこられておりますが、体臭がきつく注意していいものか困っています。パワハラと認識されないために、どうしたらいいでしょうか?」と質問を寄せた。

実際に注意したところ「パワハラだ」と反発された人からの相談もあった。「同僚の体臭を注意して欲しい」と相談を受けた管理職が「パワハラになってしまうのでは」と、難しい対応を迫られている様子が浮き彫りになった。

反対に、注意を受けた人からの相談も寄せられている。

ある相談者は、職場の先輩に「体臭がきついスメハラ(スメルハラスメント)だ」と言われた挙句、「消臭剤を私の近くに置いたり、制汗剤を私が不在の時に私の席の近くで、撒いたり」されており、嫌がらせだと不快に感じてるそうだ。

他の同僚には「気にならない」と言われたといい、相談者は「ありもしない事実を職場で言いふらすのは名誉毀損ではないか」と憤る。

体臭は性別に関係なく、誰にでも起こりうる非常にデリケートな問題だが、職場では仕事に支障が出るケースもある。体臭についてどのように対応すればよいのだろうか。今井俊裕弁護士に聞いた。

――職場での体臭について悩む相談が多数寄せられています。

職場の体臭はケースバイケースで、一言では言えないデリケートな難しさがあります。

基本的な社会生活を営む能力やパーソナリティに何らかの問題を抱えていて、何日も風呂に入らなくても平気、とか、毎日同じ下着やワイシャツを着ていても平気、というような人も世の中には稀にはいるでしょう。

しかし、本人の身だしなみが原因ではなく、生まれ持った体質や持病などによって、体臭が生まれる人も多いのではないでしょうか。生まれ持った体質や持病などが原因の場合、本人の努力だけでは解消しないケースもあるはずです。

一方で、「体臭がきつい」と言って非難している方についても、その人個人の感覚や何らかのバイアスがかかっている可能性もあります。たとえば「合理的には説明できないが、なにかしら生理的に受け付けがたい人」というようなパターンです。

そのような先入観や主観的な思い込み、偏見が重なった結果として、「体臭もきつい」「同じ職場で一緒に仕事をしたくない」という感情を抱いている可能性もあるはずです。

――では上司はどのように対応すればよいのでしょうか。「パワハラになるのでは」という声もあります。

上司が部員を「指導」するのは法的にも問題がないことです。複数の人から改善要求が出て業務に支障が発生しているような場合には、本人に自覚や改善を促すことは考えられるでしょう。

その場合でも、非常にデリケートな内容ですので、感情的に話さない、周囲に聞かれない環境で話す、人格攻撃と受け止められないように話すなど、本人の尊厳を守りパワハラと受け止められないように工夫する必要があります。

なお、病気や体質ではなく本人の身だしなみレベルの問題で、上司から何度か指導を受けているにもかかわらず一向に改めず、業務に支障が出ており、周囲の同僚もほぼ全員が辟易しているというパターンもあるでしょう。

その場合には、職場の協調性に問題がある、指導に従わないという理由で懲戒に値する可能性もあります。

今井 俊裕(いまい・としひろ)

弁護士

1999年弁護士登録。労働(使用者側)、会社法、不動産関連事件の取扱い多数。具体的かつ戦略的な方針提示がモットー。行政における、開発審査会の委員、感染症診査協議会の委員を歴任。

今井法律事務所

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