熱海土石流災害で「法的責任ない」と主張する静岡県…静岡新聞の厳しい追及に、異例の対応を取った県の「違和感の正体」

AI要約

2021年7月3日、熱海市伊豆山で発生した突然の土石流に関する損害賠償訴訟の争点が明らかになっている。

静岡県の主張と原告団の主張が異なり、地下水か表流水かが大きな焦点となっている。

記事によれば、静岡新聞が県の主張を追及しており、訴訟の進展に影響している。

熱海土石流災害で「法的責任ない」と主張する静岡県…静岡新聞の厳しい追及に、異例の対応を取った県の「違和感の正体」

2021年7月3日、熱海市伊豆山で発生した突然の土石流は渓流沿いの家屋等をなぎ倒し、災害関連死を含めて28人もの生命を奪う、大規模災害に発展した。

原因となった不適切な盛り土部分の土地の現所有者、旧所有者と静岡県、熱海市を相手取って、被害者の遺族ら原告団が総計68億円の損害賠償を求めた訴訟を起こしている。

静岡地裁沼津支部で争われている損害賠償請求の裁判で、大きな焦点の1つとなっている「静岡県の法的責任」について、静岡県は真っ向から否定している。対して、マスコミでは、静岡新聞のみが静岡県の対応を厳しくかつ徹底的に追及している。

しかし、静岡県は、静岡新聞の社説を含めて、5月21日から7月24日までの2カ月間14本ものさまざまな記事に対して、県HP(ホームページ)で、記事内容が間違いだと詳しく主張する異例の対抗措置を取っている。

争点となったのは、24日付静岡新聞の、『表流水流入 県「否定せず」 知事会見 幹部が新たな見解』と題する3段見出しの記事だ。静岡県の「新たな見解」なのか、それとも「従来からの見解」なのかにこだわっている。

県がこんな瑣末とも言えるものに執着するのは、熱海土石流の損害賠償請求訴訟が念頭にあることがわかる。

もともと、不適切な盛り土の現所有者と旧所有者への訴訟と静岡県と熱海市への行政訴訟は別々だったが、その後、併合されている。

それで2022年12月に第1回口頭弁論が開かれてから、約1年半を経て、2024年7月10日にようやく第2回口頭弁論が開かれた。

また、原告団が、早期和解を求める旧弁護団と県の法的責任を含めて原因究明を求める新弁護団の2つに分かれてしまい、弁護団によっても主張に違いがあるのだ。

県が「法的責任」を認めない大きな理由の1つが、静岡新聞記事が問題にする「崩落の発生原因」である。

盛り土崩落の発生原因を調べる県の検証委員会は2022年9月、締め固めが不十分な盛り土内部に大量の地下水が流入して、軟化して大崩落につながったと結論づけた。

つまり、県は盛り土付近の「地下の湧水」を最大の原因とした。

それに対して、ことし7月10日の第2回口頭弁論で、原告側は「隣接する鳴沢川の上流部が周辺の開発行為で逢初川に争奪され、本来は北側斜面に流れるはずの大量の表流水が分水嶺を越えて一気に逢初川に流れ込んで土石流を引き起こした」などと主張した。

原告団は「地下水」が主な原因ではなく、「大量の表流水」が主な原因であり、土石流を引き起こしたというのだ。

静岡新聞の論調は、これとほぼ同じである。

このため2024年5月30日付静岡新聞では、『専門家指摘 開発で表流水流入か』の見出しの記事を掲載した。

記事は「隣接する鳴沢川上流域は業者が無許可開発したり宅地造成を途中で放置したりしていて、県が許認可に関わった」とした上で、リニア問題を議論する静岡県地質構造・水資源専門部会の塩坂邦雄委員(専門・地質、株式会社サイエンス技師長)を登場させて、次のような談話を掲載した。

『盛り土の崩落が自然に湧き出る地下水の影響なら天災だが、隣接流域の開発地から流入する表流水の影響だとしたら人災になる。開発の責任を追及されるのを恐れて県が不合理な地下水説を主張した可能性を検証する必要があるのではないか』

塩坂氏の主張は、発災直後の2021年7月4日、6日に現地調査を行ったとき以来、変わっていない。

崩落個所より上部にある大規模な造成行為が途中となった地域を確認した上で、盛り土周辺に雨水が流れ込む範囲(集水域)が約6倍に広がり、人為的な「河川争奪」(河川の流域の一部分を別の川が奪う地理的な現象)が起きたことが大規模な土石流につながったと、塩坂氏は指摘したのだ。

起点となった逢初(あいぞめ)川の約4万平方メートルの盛り土付近ではなく、鳴沢川の上流部が周辺の開発行為で逢初川に争奪され、集水面積が6倍の計約25万平方メートルにもなり、本来は北側斜面に流れるはずの大量の表流水が分水嶺を越えて一気に逢初川に流れ込んだという。

静岡県の許可で林地開発が行われた地域で、大規模な土地造成が途中で止まったまま、むき出し裸地や排水溝などから大量の雨水が流れ込んだ。

道路などを通じて崩落した盛り土付近に一気に流れ込み、盛り土付近にたまった地下水との複合要因が、大災害につながったと塩坂氏は主張した。

もし、塩坂氏の主張が正しいならば、大規模な宅地造成地をそのまま放置した業者を指導できなかった熱海市だけではなく、静岡県の法的責任は非常に重い。

当時、塩坂氏の主張内容は7月9日付静岡新聞夕刊1面トップ記事に掲載された。

ところが、この新聞記事を読んだ難波喬司副知事(現・静岡市長)は同日午後の会見で、「はっきり申し上げるが、(この記事は)誤りである」、「不確定な情報で危険性を指摘するのは不適切だ。被災者の方たちがどう思うか」と激怒、即座に塩坂氏の「河川争奪」説を否定した。

発災直後から、難波副知事は連日、熱海土石流災害の全容解明に向けて、大規模土石流の起点となった「盛り土」崩壊のメカニズムなど県の調査を基に説明していた。1)500ミリにも及ぶ長雨蓄積型の天候要因、2)産業廃棄物が混ざり、届け出の1・5倍もの不適切な「盛り土」という人的要因、3)適切な指導、監督できなかった行政責任などの検証を主導する立場だった。