高齢の母がショッピングセンターで台車に追突されてけが…治療費のほかに慰謝料の請求は可能か?弁護士が解説

AI要約

母親が買い物中に店員の不手際によりけがをし、治療費と慰謝料を請求することに関する法的アドバイス。

不注意による事故においては店側が全面的に責任を負い、損害賠償の責任がある。

後遺症や精神的苦痛に対する慰謝料請求の可能性について解説し、交渉や示談についてもアドバイス。

高齢の母がショッピングセンターで台車に追突されてけが…治療費のほかに慰謝料の請求は可能か?弁護士が解説

 買い物中に店員の不手際によってけがをしてしまった場合、店側に対してけがの治療費のほかに“慰謝料”を請求することはできるのだろうか。実際の法律相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する。

【質問】

 高齢の母がショッピングセンターを歩いていたら、大きな荷物を載せた台車を押していた店員に後ろから追突され転倒しました。そのときは湿布を貼ってもらい帰宅しましたが、夜になって痛みがひどくなり、後日、店のかたが整形外科へ連れて行ってくれました。診断は「打撲」でした。

 店は100%悪いと認め、治療費を払ってくれましたが、慰謝料も請求することはできますか。母は5年前に脳梗塞を患い、現在も通院中です。(青森県・50才・会社員)

【回答】

 歩行中の人に台車で追突したのですから、店の言う通り、全面的に店員の不注意による事故になります。その結果、お母さんにけがをさせたので、店員は過失によって他人の権利を侵害した者として不法行為責任を負います。店員が店の業務として台車を押していたときに発生した事故なので、店には使用者責任があり、店と店員は連帯してお母さんに発生した損害を賠償する義務があります。支払い済みの治療費のほか、通院費や松葉杖などの装具が必要になった場合には、その費用も損害となります。

 さらに、けがをしたことによる精神的苦痛に対しては慰謝料を請求できます。その額は、交通事故で用いられる算定方式が参考になります。算定方式は、治るまでの入通院期間や回数を基準に計算するものです。例えば通院1か月だと、程度によりますが、19万~28万円といった具合です。

 ただお母さんは、事故と無関係の脳梗塞治療に通院中とのことですから、事故治療をした日が少ない場合は減額されます。また、仕事をしているのに通院や自宅安静などで休業したときはその分が損害になります。

 次に、治療しても完全に治らない障害が残る場合もあります。これが後遺症です。事故の結果発生する後遺症は賠償の対象です。後遺症による損害は2つに分けられます。

 1つは障害により発生する経済的不利益です。後遺症の障害により働けなくなったり、できる作業の範囲が制限されるようになったりすれば、将来の収入の減少が発生し得るので、労働能力が喪失したとしてその程度に応じて逸失利益として賠償請求できます。

 加えて、後遺症の程度に応じて被る精神的苦痛に対しての慰謝料の請求も可能です。後遺症に起因する逸失利益や慰謝料の算定に当たっても、交通事故の考え方が参考になります。

 もっともお母さんの場合、脳梗塞の後遺症がありますから、事故によって増悪した程度が問題になります。損害について店と交渉し示談をする上では、論点を整理するために診断書などを用意して、弁護士会の法律相談を利用するのがよいと思います。

【プロフィール】

竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。

※女性セブン2024年8月1日号