デジタル選挙と帝政ローマ

AI要約

東京都知事選を控えた週末、AI起業家の候補者の後援者たちが熱心にポスターを貼る姿に触れ、純粋で真摯な選挙姿勢に感銘を受ける。

企業の株主総会と都知事選のガバナンスに共通性を見出し、取締役選任の重要性や人材多様性の必要性について考察する。

議員にもスキル・マトリクスが求められるとし、選挙区外出身者比率や市民代表としての資質能力の評価が必要であることを指摘する。

デジタル選挙と帝政ローマ

東京都知事選が火ぶたを切った6月下旬の週末だった。梅雨入りのうっとうしい空の下で、とある候補者のポスターを一心不乱に掲示板に貼っている若いカップルに目が留まった。偶然にも私が興味をもっていた人物の後援者たちだった。額にうっすら汗を浮かべた女性がほほ笑む。「夫と二人で手伝っています。もちろん手弁当ですよ。私は候補者の妻の同級生です」。候補者は30代前半で、AI(人工知能)を専門にする起業家だ。人間とAIが親和的な住み良い社会をつくりたい、当選は難しいが、テクノロジーと生身の人間が上手に折り合っていく大切さを訴えていきたい、と主張する。

彼の主義主張もさることながら、選挙に向き合う純粋で真摯な姿勢に大いに惹かれた。お金もコネも支援団体もない。あるのは信条とマニフェスト、それに若い仲間たちだけである。思わず、高校時代の生徒会長選挙を思い出した。これこそが選挙の原点ではないのか、と。

都知事選は、企業の株主総会のピークと重なった。政治も企業も共に最重要なポイントがガバナンスである。特に重大な意思決定を行う議員と役員の選任が要諦だ。何社かの株主総会に出席しながら、選挙との共通点に思いを致した。

企業ガバナンスのキモといえるのが取締役の選任である。最近とみに重視されている点は、女性比率の向上など人材多様性の確保と社外取締役比率のアップ、それに取締役適性を判断するためのスキル・マトリクスである。女性比率については3割を、社外取締役比率は過半数を目指せといわれ、スキルに関しては経営、会計、法務、国際性、技術力、サステナビリティ等々への知見が要求されている。

これを選挙に当てはめたらどうなるか。議員の3割は女性に、という考え方は当然だ。「社外」取締役比率を議員に置き換えると、選挙区外の出身者の割合ということか。過半数はともかく、すでにそうした候補者が少なくない。ただし、彼らの多くが政治過程のガバナンス・チェックを目標にしているとは思えない点が気になるが。

いちばん欲しいのがスキル・マトリクスである。ステークホルダーが膨大な数に上る議員には、企業の取締役以上に厳しいスキル・マトリクスが求められるはずだ。都知事選の選挙ポスター掲示を巡る、ばかばかしいまでに低レベルの行動を見せつけられると、ますますその思いが強くなる。経済、社会問題と行政への見識、組織運営の知見、リーガルマインドの水準、何らかの専門性、持続可能性への深い理解等々、市民の代表としての資質能力こそきっちり評価すべきではないか。