救急搬送だけじゃない…「激辛」ブームで心配される若者の安易なチャレンジ 専門家は「テレビの激辛番組はいらない」と懸念

AI要約

唐辛子を含む激辛食品が食べられる理由や健康への影響について専門家の解説。

唐辛子の辛さは痛みを感じさせる物質であり、食欲や快感を増やす脳内物質も関係している。

激辛食品への依存性や限界について、個人差があるため一概には言えない。

救急搬送だけじゃない…「激辛」ブームで心配される若者の安易なチャレンジ 専門家は「テレビの激辛番組はいらない」と懸念

 7月中旬、都立高校で「激辛ポテトチップス」を食べた生徒14人が吐き気などの体調不良を訴え救急搬送されたニュースが話題になったが、「激辛」をめぐっては過去にも国内外で死亡や入院した事例が報告されている。「激辛」の食べ物を摂取しただけで入院するほどの体調不良とは一体どんな状態なのか。その時、体内では何が起こっているのか。「なぜ」を専門家に取材した。

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 騒動が起きたのは、東京都大田区の都立高校。生徒らは、かつて世界一辛い唐辛子に認定された「ブート・ジョロキア」を使った激辛チップスを食べ、体調不良で搬送された。

 ここ数年「激辛」がブームになっているなかで、こうした騒動は今に始まった話ではない。2019年には長野県の高校の文化祭イベントで、激辛調味料を混ぜたトマトジュースを飲んだ生徒ら9人が搬送されている。米国では昨年、14歳の少年が激辛チップスを食べたあと、死亡している。

 健康へのリスクがあることを知りながら、なぜ人は「激辛」を求めるのか。食品や栄養成分が人体に及ぼす仕組みに詳しい畿央大学名誉教授の山本隆さん(栄養生理学)に解説してもらった。

――搬送された高校生が食べた激辛チップスには、世界一辛い唐辛子に認定された「ブート・ジョロキア」が使われていたそうです。そもそも、人間はなぜ唐辛子を食べるのでしょうか。他の動物は食べないと聞いています。

 山本 唐辛子の辛み成分は、みなさんご存じの「カプサイシン」です。人間の神経の末端には43度以上の熱に反応する「TRPV1」という受容体があるのですが、「TRPV1」はこのカプサイシンにも反応するため「痛い、熱い」と感じるのです。唐辛子の辛さは「味」ではありません。

■カプサイシンは「脳内麻薬」を分泌する

――確かに激辛ラーメンなどを食べると、舌などが痛くなって汗が吹き出します。

山本 小さな子どもは本能的に拒否しますよね。では、なぜ人間が唐辛子を食べるようになったのか。それは、脇役として料理に添加すると食欲が増すことに気づいたからだと思います。

――食欲が落ちるこの暑い夏も、辛い物が無性に食べたくなりますね。

 カプサイシンを摂取するメリットとしては、快感や多幸感を得る「ドーパミン」という脳内物質が増えることで、食欲が増進する点があります。

 さらに、カプサイシンは脳内麻薬とも呼ばれ強い鎮痛作用がある「β‐エンドルフィン」の分泌を促します。

 このβ‐エンドルフィンには、おいしいものを食べた時にそれを実感させ、食後の満足感、至福感を引き起こすという重要な作用があります。そこに唐辛子が加わると、さらにβ‐エンドルフィンが分泌されますから、おいしさが倍増することになります。

――「激辛」の食品にドハマりして、どんどん強い辛さを求める人がいるのは脳内物質のせいですか。

山本 まさにβ‐エンドルフィンの依存性によるものです。辛い物を食べる回数を重ねるにつれ、β‐エンドルフィンの分泌が弱くなり、同じ満足度を得るには唐辛子の量を増やさなくてはならなくなります。お酒のアルコールと似た部分があると思います。

――限界はあるのですか。

山本 カプサイシンにより、「快感」と「痛み(熱刺激)」の両方が増大し、後者が強くなると限界が来ます。ただ、個人差がありますので、どの程度の量が限界とは一概には言えません。