【社説】強制不妊を謝罪 漏れなき救済、首相が導け

AI要約

岸田文雄首相は被害者救済を表明し、優生保護法に基づく強制不妊手術の違憲を謝罪した。

最高裁判決は国の責任を断罪し、新法の制定や被害者補償の速やかな実施を求めている。

被害者救済には配偶者も含めた慰謝料の支給や個別通知の徹底が必要である。

【社説】強制不妊を謝罪 漏れなき救済、首相が導け

 人間の尊厳を踏みにじる行為が国家主導で長く続けられた。岸田文雄首相はその歴史を深く胸に刻み、被害者救済の先頭に立つ責任がある。

 旧優生保護法を違憲と判断し、強制不妊手術に関して国に損害賠償を命じた最高裁判決を受け、岸田首相は原告に直接会い謝罪した。

 判決は議員立法で人権侵害の法律を作った国会と、半世紀近く違法な施策を推進し、旧法の改正後も長らく被害者への補償に動かなかった国の責任を断罪した。

 国は一連の裁判で、不法行為から20年で損害賠償請求権が消える「除斥期間」を主張し、責任を免れようとしてきた。首相はこの主張を撤回し「速やかな解決に向けて全力を尽くす」と表明した。

 被害者の多くは高齢者である。裁判を起こしていない人も漏れなく早急に救済する必要がある。首相には指導力を発揮してもらいたい。

 優生思想の根絶に向けた教育と啓発も、国は主体的に行わねばならない。

 超党派の議員連盟が被害者補償の新法制定について検討している。秋の臨時国会への提出を目指すという。国会と政府は連携し実効性のある枠組みを構築すべきだ。

 2019年に施行された一時金支給法は、手術を受けた本人のみに一律320万円を支払う。名目は賠償ではなくあくまで見舞金である。

 最高裁判決は本人への慰謝料が最大1500万円、配偶者が200万円と算定した。この金額が基準になろう。苦しみの実態を考えれば、首相が配偶者も対象にする考えを示したのは妥当だ。

 支給法が反省とおわびの主語を「われわれ」と曖昧にしたのは問題だった。新法では国の責任や旧法の違憲性を明記し、本格的な救済の出発点にしなくてはならない。

 潜在被害者の掘り起こしが焦点になる。実務を担う都道府県が要員を確保できるよう国の財政支援が必要だ。

 手術を受けた約2万5千人のうち、約1万2千人が存命とみられる。ところが一時金の支給を認定された人は5月までに全国で1110人、うち九州は93人に過ぎない。

 国はうそを言ってでも手術を強制することを都道府県に許可した。手術を受けたこと自体知らない人がいる。偏見やつらい記憶のため声を上げられない人も少なくない。

 個人を特定できる記録が約3千人分残っていながら、国は本人への個別通知は不要との立場を取ってきた。プライバシー保護が理由だ。

 山形、岐阜、兵庫、鳥取など少数の県は個別に通知してきた。周囲に知られたくない人に配慮し、郵送せず本人を訪ねるなど問題なく一時金申請につなげている。

 原告や日弁連が個別通知を求めるのは当然だ。記録があるのに本人からの申告がないと放置する姿勢は、被害者の存在を再び否定することであり許されない。