日・NATO、安保協力一段と 中ロ朝の複合危機に共同歩調 岸田首相が米独訪問、不安要素も〔深層探訪〕

AI要約

岸田首相がNATO首脳会議に出席し、アジア太平洋情勢への関心を強調

日本と欧州の連携強化を図る一方、中国やロシアとの脅威に対処

米国大統領選の結果や欧州の政治情勢がNATOの未来に影響

日・NATO、安保協力一段と 中ロ朝の複合危機に共同歩調 岸田首相が米独訪問、不安要素も〔深層探訪〕

 岸田文雄首相が10日、欧米の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席するため、米ワシントンに向けて出発した。アジア太平洋で軍事的活動を強める中国、ウクライナ侵攻を続けるロシア、同国と急接近する北朝鮮に取り囲まれる日本として、NATOと「複合危機」への共同歩調を確認し、安全保障上の連携を一段と強める方針。ただ、欧州は一枚岩ではなく、米国も11月の大統領選の結果次第で西側の結束を大きく揺さぶりかねない。不安を抱えた訪問となる。

 ◇太平洋に関与を

 首相は11日、欧米首脳が顔をそろえるNATO会合で「パートナー国」としてスピーチする。中国が影響力を高めるインド太平洋情勢を説明し、欧州の同志国にこの地域への関心と関与を強く求める考えだ。

 10日の出発に先立ち、首相は記者団に「欧州大西洋とインド太平洋の安保環境は不可分だと各国首脳と確認したい」と出席の狙いを語った。

 日本と欧州は地理的に離れているが、宇宙やサイバー分野などを含めた協力関係は急速に進んでいる。ロシアや中国の動向を踏まえ、NATOとは新たに、偽情報対策の協議枠組みや情報共有のための専用通信回線の設置で合意する見通しだ。

 ロシアは今もウクライナ各地にミサイル攻撃を続けており、欧州の関心はロシアに向かいがち。日本政府関係者は「インド太平洋での中国の覇権主義的行動を正確に認識している人がNATOに少ない。首相が会議に参加することで(中国に関する)情報を共有できる」と強調する。

 ◇「ドイツは親中」

 ただ、欧州にとって中国は有力な経済市場で、警戒一色ではない。NATOが「東京事務所」を設置する案も一時浮上したが、中国の反発を懸念したフランスが反対、ドイツも慎重な姿勢を示して立ち消えとなった。

 岸田首相が米国に続いて訪問するドイツは「経済面ではかなり親中」(首相周辺)とされる。ショルツ首相は4月に中国を訪れ、習近平国家主席と会談。自動車など独企業の代表団も引き連れ、中国との経済関係拡大を図った。習氏も5月に欧州を歴訪。独自外交にこだわるフランス、中国に接近するハンガリーなどに足を運び、対中警戒を解くための外交攻勢を強めている。

 岸田首相はショルツ首相との会談で経済安保を協議する枠組み創設で合意する方向。中国に対する警戒感を促し続ける狙いがある。

 ◇トランプ氏勝利なら危機

 バイデン米大統領(81)がNATOの盟主として指導力を発揮できるかも焦点だ。高齢不安から大統領選撤退論を払拭できない中、日本としても選挙戦の行方を注視している。首相周辺は「大統領選は最後まで分からない」と語った。

 同盟軽視のトランプ前大統領が返り咲けばNATOは危機に陥りかねない。米国が軍事・資金面でウクライナを支え続けるかは不透明になり、NATO離脱にすら踏み切るとの見方も消えない。

 先のフランス総選挙や欧州連合(EU)の欧州議会選挙などでは極右・右派勢力が伸長。ウクライナ支援疲れや物価高などへの不満が膨らんでおり、欧州政治の不安定化は民主主義陣営の団結にも影響しそうだ。日本でも岸田首相の内閣支持率は低迷を続け、自民党内で退陣を求める声が公然と上がる。首相の今回の米独訪問を政権浮揚につなげるのは難しいとの見方が大勢だ。