【美食家が語る】美味しいのになぜか足が遠のく…「一流レストラン」に共通すること

AI要約

ビジネスエリートの間では「美食の教養」が尊重されており、それを得るための共通点について解説。

料理人に求められる自信や、自分の料理の定義づけについて説明。

どのような料理を提供するか、自信を持ち、過信も過小評価もせず、等身大で接する姿勢が重要。

【美食家が語る】美味しいのになぜか足が遠のく…「一流レストラン」に共通すること

 世界のビジネスエリートの間では、いくら稼いでいる、どんな贅沢品を持っている、よりも尊敬されるのが「美食」の教養である。単に、高級な店に行けばいいわけではない。料理の背後にある歴史や国の文化、食材の知識、一流シェフを知っていることが最強のビジネスツールになる。そこで本連載では、『美食の教養』の著者であり、イェール大を卒業後、世界127カ国・地域を食べ歩く浜田岳文氏に、食の世界が広がるエピソードを教えてもらう。

● 共通点① 料理の定義ができている

 僕は、世界を代表するレストランを過去30年以上かけて食べ歩いてきました。その中で、お客さんに愛され、長く続いていて、かつガストロノミーとしての伝統文化や創造性を体現しているお店や料理人に、なんとなく共通しているところがある、と感じるようになりました。

 まず1つ目は、自分の料理がどういう料理か、定義できている、ということです。わかりやすいのが、地元の食材を使っています、だったり、薪を使って調理します、などです。ただ、どういう料理です、というのは一言では表しづらいこともある。

 逆にわかりやすいのが、「何をやらないか」。つまり、使わない食材や調理法などを定義できている、ということです。

 これはどんなクリエイティブの分野にも共通していると思いますが、自分自身のオリジナリティは、やらないことという縛りを設けることでより明確になる。なんでもやります、では、逆に軸がなくなってしまって、迷ってしまう。お客さんも、何を期待していいのかわからない。極端なたとえだと、調性のない音楽。調性という縛りがあるから理解できるわけで、無調だと聴く人のリテラシーが異常に高くないと楽しめない。

 これは、料理以外の要素にも共通します。美味しくてリピートする店もあれば、美味しいのになぜか足が遠のく店もある。

 その大きな理由は、利用シーンが明確かどうか、が挙げられます。

 たとえば、パイ包みが食べたいからそれを得意とするシェフの店に行く。◯◯シェフの肉の火入れがすごいから行く。料理以外だと、大事な会食には人目に触れない個室がある◯◯。デートなら、ゆっくり話せる◯◯。

 利用シーンがぱっと浮かばない店は、特に悪いところがなくても、自然と足が遠のくのです。特に東京のようにレストランが無数ある市場においては、万人に受けようとすると、結果的に誰からも選ばれない店になるリスクがあります。

 だから、「何をやらないか」と同時に、「どういう人には来てもらわなくていいか」を決めるのも重要だと思います。

● 共通点② 一皿に自信がある

 2つ目は、自信があること。自信があるというと、自信家、という言葉に表されるように、自信過剰な意味に使われがちです。

 ただ、僕が思う意味としては、過信せず過小評価もせず、等身大の自分を理解している。だから、自分を実際より大きく、よく見せようと思わないし、理解してもらえなかったらしょうがないと思えている。

 たとえば、京都の「緒方」は日本を代表する割烹ですが、覚悟と胆力を感じる料理を提供しています。あるときいただいた玉ねぎのお椀は、玉ねぎの輪切りと出汁のみ。これ以上にシンプルな椀物があるのか、というくらいに研ぎ澄まされています。自信がなければ、とても出せない一品だと思います。

 逆に、自信がない料理人はどうなるか。とりあえず多めに食材を盛り込みがちです。どの食材も決め手があると思えない、自信がないから、「とりあえず」複数盛り込む。なんなら、高級食材をてんこ盛りにする。どれかがお客さんにハマってくれればいい、という願いを込めて。

 そして、コース全体でも、品数が増えがちです。つまり、この皿で勝負する、という自信がないから、「とりあえず」皿数を増やす。またしても、どれかがお客さんにハマってくれればいい、という願いを込めて。

 この自信のなさは、お客さんに伝わります。たとえば、駆け出しのセールスパーソンがお客さんに営業をかけるとき、言葉数が多くなってしまい、怪しく聞こえてしまう。異性を口説くときに、次から次へと話を繰り広げたことで、焦りが伝わってしまう。どちらも、自信がある人なら一言で刺さるでしょう(僕ができるかどうかは別です)。

 料理の場合、結局は、自分の道を突き詰めるしかない。これ以上できないというところまで突き詰めたら、良い意味で諦めがついて、自信がある(等身大の自分を受け入れている)状態に行き着く。長い時間はかかるかもしれませんが、一流の料理人はここにたどり着いていると思います。

 (本稿は書籍『美食の教養 世界一の美食家が知っていること』より一部を抜粋・編集したものです)

浜田岳文

(はまだ・たけふみ)

1974年兵庫県宝塚市生まれ。米国・イェール大学卒業(政治学専攻)。大学在学中、学生寮のまずい食事から逃れるため、ニューヨークを中心に食べ歩きを開始。卒業後、本格的に美食を追求するためフランス・パリに留学。南極から北朝鮮まで、世界約127カ国・地域を踏破。一年の5ヵ月を海外、3ヵ月を東京、4ヵ月を地方で食べ歩く。2017年度「世界のベストレストラン50」全50軒を踏破。「OAD世界のトップレストラン(OAD Top Restaurants)」のレビュアーランキングでは2018年度から6年連続第1位にランクイン。国内のみならず、世界のさまざまなジャンルのトップシェフと交流を持ち、インターネットや雑誌など国内外のメディアで食や旅に関する情報を発信中。株式会社アクセス・オール・エリアの代表としては、エンターテインメントや食の領域で数社のアドバイザーを務めつつ、食関連スタートアップへの出資も行っている。