第2の「セクシー田中さん」が生まれるだけ…「芦原さんの死は日テレのせい」という安易な決めつけが危険な理由

AI要約

日本テレビのドラマ「セクシー田中さん」の原作者で、漫画家の芦原妃名子さんが亡くなったことを受け、日本テレビと小学館が出した調査報告書に批判が殺到した。桜美林大学の西山守准教授は「『芦原さんの死去は全て日テレのせい』という安易な犯人捜しに終始しては、『ドラマ作りはどうあるべきか』という本当に学び取るべきことにたどり着けない」という――。

■日テレ、小学館の調査報告書発表で「批判合戦」に逆戻り

 「セクシー田中さん」の一連の問題について、5月31日に日本テレビが、6月3日に小学館がそれぞれ調査報告書を公表した。

 発表当初は、両者の報告書の主張の食い違いを中心に、ネットや週刊誌では様々な議論が飛び交った。多くは関係者に対する批判を含むもので、矛先の多くは日本テレビに向かっていた。SNSではドラマの脚本家を批判する声も目立った。小学館に対する批判も少なからず見られた。

 残念ながら、本件から本当に学び取るべきことが、いまだ十分に語られていないように思えてならない。

日本テレビのドラマ「セクシー田中さん」の原作者で、漫画家の芦原妃名子さんが亡くなったことを受け、日本テレビと小学館が出した調査報告書に批判が殺到した。桜美林大学の西山守准教授は「『芦原さんの死去は全て日テレのせい』という安易な犯人捜しに終始しては、『ドラマ作りはどうあるべきか』という本当に学び取るべきことにたどり着けない」という――。

■日テレ、小学館の調査報告書発表で「批判合戦」に逆戻り

 「セクシー田中さん」の一連の問題について、5月31日に日本テレビが、6月3日に小学館がそれぞれ調査報告書を公表した。

 発表当初は、両者の報告書の主張の食い違いを中心に、ネットや週刊誌では様々な議論が飛び交った。多くは関係者に対する批判を含むもので、矛先の多くは日本テレビに向かっていた。SNSではドラマの脚本家を批判する声も目立った。小学館に対する批判も少なからず見られた。

 テレビや新聞も踏み込んだ報道は少なく、多くが日本テレビと小学館の主張の食い違いを批判する内容に終始していたように思う。世の中全体からすると「詳しくはよくわからないが、何か酷いことが行われたようだ」という印象が残ったまま、一連の事案はすでに風化しつつあるように見える。

 建設的な論考は目立たず、原作者である芦原妃名子さんの死の直後と同じような批判合戦が再び巻き起こってしまったように思える。

 残念ながら、本件から本当に学び取るべきことが、いまだ十分に語られていないように思えてならない。

 それは、今後、原作者を尊重したドラマ、さらには実写作品をどう作っていくのかということだ。

 ここに目を向けずに、芦原さんの直接的な死の引き金となったと思われる他者への攻撃を容認し続けていると、「セクシー田中さん」で起きたような悲劇が違った形で繰り返されることになりかねない。

■原作者は完成したドラマを愛していた

 日本テレビと小学館から別々に報告書が出されており、双方の認識が異なる点も多いことから、主張の違いばかりが取り沙汰される結果となっている。

 そこを議論することは悪いことではないが、見解が一致している部分も同時に明確にして、事実の可能性が高いところを理解し、そこを前提として議論をしなければ片手落ちになる。

 有識者も含めて、多くの人が見落としているのは、「原作改変はなされていない」「原作者は完成したドラマに満足していた」とした点だ。

 日本テレビの調査報告書には「本件原作者は作品の出来自体には満足している様子が見られた」とある。また、小学館の調査報告書には「本事案では、多大の労力を要したものの最終的には、芦原氏が納得した脚本が完成し、テレビドラマも成功と言える成績を上げた」とある。

 自身で削除してしまっているはいるが、芦原さん自身が2024年1月26日に投稿したブログの締めくくりの文章は下記の通りである。

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最後となりましたが、素敵なドラマ作品にして頂いた、素晴らしいキャストの皆さんや、ドラマの制作スタッフの皆様と、「セクシー田中さん」の漫画とドラマを愛してくださった読者と視聴者の皆様に深く感謝いたします。

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■原作改変は最終的には「阻止」された

 また、原作改変については、同じ芦原さんのブログ投稿から、下記のことが述べられている。

 ・1~7話は、脚本家から上がってきた脚本に芦原さんが加筆修正を加えて、ほぼ「原作通り」となった

・ドラマオリジナルの8~10話の脚本については、8話は改変される前の内容に芦原さん側で修正した。9話、10話は芦原さん自身が書いた

 日本テレビ、小学館の両方の報告書を見比べても、この点に間違いはなかったようだ。そもそも、芦原さんは小学館側と事実確認をした上で、このブログを投稿しているのだから、小学館の報告書で同じ結論になるのは、当然と言えば当然のことである。