仏ボルドー近郊の老舗ワイナリーが「醤油」も醸造する深い理由

AI要約

フランスのワイナリーで醤油が醸造される意外な取り組みについて。フランス各地で醤油の醸造が進んでいるが、ワイン醸造家が手がけるのは初めて。サン=テミリオンの名ワイナリー「シャトー・クーテ」のオーナー夫妻が日本の湯浅で醤油製造家と出会い、共同のプロジェクトを始めた。

ワイン好きの友人の導きで、フランスと日本の醤油製造家が出会い、共通の価値観を持って新たな冒険に挑む。サン=テミリオン周辺で穀物や果樹の栽培も行うポリカルチャーのプロジェクトもスタート。

フランスのワイン作りに危機感を持つ夫妻が、畑の殺虫剤を一切使用しない14世代の歴史を持つシャトー・クーテの土地で、新たな可能性を追求している。

仏ボルドー近郊の老舗ワイナリーが「醤油」も醸造する深い理由

仏ボルドー近郊サン=テミリオンにあるグラン・クリュのワイナリーで、なぜか醤油が醸造されているという。仏高級紙「ル・モンド」が、その意外な組み合わせの理由を取材──。

発酵させ、櫂(かい)入れをし、圧搾し、樽で熟成させる。醤油の醸造家とワインの醸造家の仕事に、共通点は少なくない。

とはいえ、そこからフランスのサン=テミリオンのワイナリーと日本醤油の発祥の地とされる湯浅という小さな町を結びつけてしまう発想の飛躍は、なかなか出てくるものではない。

フランス人のアドリアン・ダヴィッド・ボーリューとマディナ・ケールの夫妻が成し遂げたのは、まさにそんな発想の飛躍だといえる。夫妻は、サン=テミリオンにある名高いワイナリー「シャトー・クーテ」の共同オーナーだ。いまその酒蔵でメイド・イン・フランスの醤油が作られ、売り出されている。

もっとも、フランスで初めて醤油の醸造に取り組んだのがこの夫妻というわけではない。フランスでは数年前から良心的な職人たちが醤油を醸造してきた。

中西部ソーヌ=エ=ロワール県のヴァレンヌ=スー=ダンというコミューンでは「クラ」という銘柄の醤油が作られており、南東部の都市リヨンのレストラン「リポペット」でも自家製の醤油が販売されている。

西部シャラント県にある「ラ・コンパニー・ド・ブトゥヴィル」の醤油の特徴は、コニャック樽で熟成されるところだ。中部ピュイ=ド=ドーム県のブランザというコミューンでは、オーベルニュ地方産の小麦と大豆を使って醤油が醸造されている。

ただ、フランスのワイン醸造家が醤油の醸造を手掛けることはこれまでなかった。

シャトー・クーテのマディナ・ケールは言う。

「シャトー・クーテを日本に輸出してくれているワイン好きの友人の加藤尚孝が、日本醤油の発祥地で醤油を醸造している新古敏朗さんたちと引き合わせてくれました。

新古さんたちは19世紀末から湯浅で醤油を醸造しており、『湯浅醤油』という銘柄を作っています。技を次の世代に継承することを考え、職人の価値観を大事にし、環境保護を重視するところが私たちと同じでした」

マディナ・ケールは、公衆衛生が専門の人類学者でもある。夫の一族が保有してきたシャトー・クーテは、グラン・クリュ(特級畑)だ。この畑では14世代にわたり、殺虫剤がいっさい使われてこなかった。

シャトー・クーテのオーナーであるアドリアン・ダヴィッド・ボーリューが和歌山県沿岸部にある湯浅町に暮らす新古らのもとへ旅立つことになったのには、そんな経緯があった。湯浅町で日仏の醸造家は意気投合し、共同で新しい冒険に打って出ることになった。

同じころ、ボーリューとケール夫妻は、サン=テミリオンの近くのサント=テール村の土地を4ヘクタール買っていた。夫妻は、かつてブドウ畑だった土地をすっかり覆ってしまっていた茨を引っこ抜いた。その土地にはブドウも少し植えるが、おもに栽培するのは穀物と果樹にするという。

ケールは言う。

「フランスのワイン作りが危機に直面していることもあり、この地のコミュニティに役立ちたいと考え、同じ畑で複数の作物を育てるポリカルチャーのプロジェクトをすることにしました」