東京メトロ「上場」は苦難の始まり? 都は株売却に方針転換 毎日600万人以上が使う“都心の大動脈”は変わるのか

AI要約

2024年10月末に東京メトロが東京証券取引所に上場する準備が進められており、時価総額は7000億円を目指す。国と都は株式50%を3500億円で売り出す予定で、プライム市場への上場承認が期待されている。

東京メトロは20年にわたる民営化の歴史を持ち、特殊会社として株式53.4%が国と都によって保有されている。今回の上場は売却を目的とし、完全民営化ではないが、行革の一環として進められている。

株式上場による資金調達を必要としない東京メトロにとって、知名度向上や社会的信用増大を目的とした上場のメリットは限定されている。

東京メトロ「上場」は苦難の始まり? 都は株売却に方針転換 毎日600万人以上が使う“都心の大動脈”は変わるのか

 2024年8月19日、NHKや時事通信、ロイター通信など複数のメディアは、東京メトロの株主である国と東京都が、「時価総額7000億円を目指して10月末にも東京証券取引所へ上場させる調整に入った」と報じました。

 ロイター通信によれば、9月中旬に東京証券取引所からプライム市場への上場承認が下りることを見込んでいるといい、国と都はメトロ株計50%を総額3500億円で売り出すとのこと。実現すれば、2018年の携帯通信大手ソフトバンクの新規株式公開(IPO)以来の規模になるそうです。

 上場承認とは、上場を希望する企業が証券取引所の定める条件を満たしているか審査する手続きです。株主数や流通株式の見込み、企業の時価総額、利益などの形式要件を満たした上で、企業の継続性や収益性、経営の健全性、ガバナンス、情報開示などの審査を通過する必要があります。東京メトロは民営化後、株式上場準備室を設置してこれらの審査に対応する準備を重ねてきました。

 2004年の帝都高速度交通営団(営団地下鉄)民営化から20年が経過し、東京メトロは今や大手民営鉄道事業者の一角として完全に認知されたといってよいでしょう。しかし民営事業者といっても、東京地下鉄株式会社法を根拠法とし、株式の53.4%を国、46.6%を都が保有する「特殊会社」の位置付けです。

 これに対して特殊会社を上場し、政府や自治体の持ち株をすべて売却することを「完全民営化」といいます。会社法の附則には、国および都は特殊法人等整理合理化計画の趣旨を踏まえ「できる限り速やかにこの法律の廃止、その保有する株式の売却その他の必要な措置を講ずるものとする」と定められています。

 今回、売却対象となる東京メトロ株は全体の50%であり、完全民営化ではありませんが、JRも同様のステップを歩んでいます。JR旅客・貨物7社は、いずれも発足時は特殊会社でしたが、東日本・東海・西日本の本州三社は90年代から2000年代にかけて株式が順次、売却され完全民営化されました(北海道・四国・貨物は現在も特殊会社です)。

 上場は東京メトロにどのような影響を及ぼすのでしょうか。株式公開というと、株式市場から新たな資金調達を行う公募増資のイメージがありますが、今回は国と都が株式を売却し、売却益を得るためのものなので、東京メトロにはお金は入ってきません。

 一般的に株式上場のメリットとして、資金調達の多様化、知名度の向上、社会的信用の増大などが語られますが、首都圏有数の鉄道事業者である東京メトロが必要とするほどのものではありません。国鉄(JR)、電電公社(NTT)、専売公社(JT)に始まる「行革」の一環である営団民営化は、民営化そのものが目的であったのが実情です。