南海トラフ地震で懸念される「都市型津波」の脅威 強固な建物にぶつかった津波が四方八方から襲いかかる危険性

AI要約

8月8日午後4時43分頃、日向灘を震源とするM7.1の地震が発生。気象庁は初めて「南海トラフ地震臨時情報(注意)」を発表。想定死者数は最大23万1000人で、都市部では「都市型津波」の危険性あり。

近代的な開発により、強固な建物が都市部に多く、津波が方向や速度を変えて流れることも。特に東京の東側エリアや大阪湾、中京圏は大きな被害が予想される。上水道や地下鉄も被害を受ける可能性。

南海トラフ地震では全国2700万軒が停電し、交通インフラも大きな影響を受ける。緊急対策が必要とされている。

南海トラフ地震で懸念される「都市型津波」の脅威 強固な建物にぶつかった津波が四方八方から襲いかかる危険性

 8月8日午後4時43分頃、日向灘を震源とするM(マグニチュード)7.1の地震が発生した。その日、気象庁は「南海トラフ地震臨時情報(注意)」を初めて発表した。長年の脅威とされてきた南海トラフ地震は、今後30年以内に70~80%の確率で起こるとされ、その規模はM8~9クラスと超巨大だ。

 南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループの2012年の試算によると、想定死者数は最大32万3000人。2019年の再試算で23万1000人に減少したが、それでも東日本大震災の死者・行方不明者約1万8000人の約13倍という数字だ。

 いまから約80年前に、同じ南海トラフを震源域として発生した昭和東南海地震(1944年)と昭和南海地震(1946年)を合わせた死者は、約2500人だったという。時代が変わり、人口が大幅に増えたことで、被害は爆発的に膨らむ。

 想定死者数のほとんどは、津波によるものだ。だが、「海から離れているから安心」とは言えない。ここにも、「80年前との違い」がある。津波のメカニズムに詳しい中央大学教授の有川太郎氏が解説する。

「近代的な開発が進み、強固な建物が多い都市部では、津波が建物にぶつかって方向を変えたり、速度を変えたりして進んでいきます。すると、海側の方向ではなく、四方八方から津波に襲われるということが起こりうるのです。

 学術的に正式な用語ではありませんが、人口が密集する都市部で起こる危険性があるそういった現象は、『都市型津波』と呼ばれることがあります」

 特に大きな被害が予想されるのが、東京では墨田区や江東区、江戸川区などの東側のエリア。大阪では大阪湾を中心に兵庫県の甲子園球場あたりまで。中京圏でも、名古屋市を含む濃尾平野に広大な海抜ゼロメートル地帯を抱えている。「津波は海からくる」という思い込みを捨てなければならないだろう。

「水の恐怖」はまだある。1950~1970年代の高度経済成長期に整備された日本の上水道の水道管の法定耐用年数は40年で、老朽化が進んでいる。耐用年数を超えた水道管路の割合は、2020年度には20%を超えた。つまり、「日本の水道管の2割がボロい」のである。1月の能登半島地震でも、水道管のダメージは大きく、断水が長期化したことは記憶に新しい。

 南海トラフ地震でも同様の上下水道の問題が予想され、さらに深刻な被害も起こりうる。地面の下に縦横無尽に張り巡らされた地下鉄である。津波被害が想定されていないエリアでも、地震の揺れで上下水道が損傷し大規模な浸水が起きれば、地下鉄構内で多くの犠牲者が出ることも起きうる。

 ライフラインの被害は水道に留まらず、全国で2700万軒が停電し、携帯電話は大部分が繋がらなくなることが想定されている。

 内閣府の検討会の資料によると、東海道・山陽新幹線の全線が不通になるほか、東名・新東名高速道路は通行止めになり、東日本と西日本は文字通り寸断される。地震の揺れが引き起こすのは、道路の継ぎ目のずれ。特に道路と橋などの間に数十cmの段差が発生すると自動車は通れなくなり、物流どころか人の移動さえできなくなる。交通インフラがなければ、食料などの物資も被災地に届かない。

 臨時情報が終了しても地震の脅威が消えたわけではない。対策を急がなければならないだろう。

※女性セブン2024年9月5日号