株価暴落からの乱高下で気がかりな「追い証」と「仕組み債」の存在 「ブラックマンデー」超えは“前兆”か 

AI要約

7月に日本銀行が追加利上げを行い、金融市場が円高や株安に急落し、不安定な値動きが続いている。

円キャリー取引で円の調達コストが上昇し、投資家がポジションを手じまいしたことで相場が急変した。

相場の想定外の値動きにより、傷を負った投資家が増えたが、追い証や仕組み債の存在も問題の種となる可能性がある。

株価暴落からの乱高下で気がかりな「追い証」と「仕組み債」の存在 「ブラックマンデー」超えは“前兆”か 

 7月に日本銀行が追加利上げを決めると金融市場では円高や株安が急速に進み、乱高下を繰り返す不安定な値動きが続いている。今回の株価急落で傷を負った投資家は多いはずだ。相場研究家の市岡繁男さんは、金融市場が落ち着きを取り戻すまでには時間がかかりそうだとみている。

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 日銀は7月30、31日の金融政策決定会合で、国債買い入れの減額計画と追加利上げを決めた。政策金利である短期金利(無担保コール翌日物レート)の誘導目標は、それまでの0~0.1%程度から0.25%程度に引き上げた。

 市岡さんは、この日銀の追加利上げが今回の相場変動を誘発したとみている。

「追加利上げに関しては、実際にやるかどうか見方は分かれていたこともあり、意表を突かれた投資家は少なくなかったようです」

 市場では円安・ドル高を背景に、金利の低い日本円を借りて、それを元手により高いリターンが期待できる通貨や資産に投資する「円キャリー取引」が広がっていた。取引では日本円よりも高金利のドルや、ほかの通貨、日経平均株価や米ナスダック総合指数の先物取引といった、いろいろな金融商品に投資する動きもある。

 しかし、今回の追加利上げで、円の調達コストは値上がりした。ヘッジファンドなど、こうした取引を手がける投資家は、借り入れで元手を膨らませてレバレッジを利かせてより多くの資金を投じているケースが多い。円の調達コストが上昇したことで、こうした取引の「巻き戻し」が起きた。

 市岡さんは続ける。

「レバレッジを利かせて投資しているため、わずかな金利の上昇でも影響は大きい。そこで慌てて、自分のポジション(持ち高)を手じまいしたことから、外国為替相場はそれまでの円安から円高へ、日経平均やナスダック指数は下落へと急速に転じました。それが今回、下げ幅を拡大した理由だと考えています」

 7月初めに1ドル=161円台の水準だったドル・円相場は、米国の景気悪化を示す経済指標が相次いだことから、ドル安・円高が進んでいた。そうしたなか、日銀の決定会合で追加利上げが決まると、円高の動きはさらに加速。8月5日には一時同141円台に達した。

 株式市場でも、日経平均株価は同日に終値が前週末比4451円28銭安の3万1458円42銭と過去最大の下落幅を記録した。下落幅は37年前の1987年に起きた世界株の大暴落「ブラックマンデー」時を上回る。

 市岡さんは、相場の値動きがこのように「想定外」の大きさになったことで、さらに傷口は広がったと指摘する。

「一般的に、投資ファンドは相場が一定以上の値動きを超えたらポジションを手じまいする社内ルールを定めているものです。リスク管理として、損失が大きく膨らむのに歯止めをかける狙いです。しかし、こうしたルールによって、自身の損切りラインに抵触するファンドが相次ぎ、円高と株安の進行を助長することになったとみています」

「売り」が「売り」を呼び、値下がり幅が増幅される構図だ。ただ市岡さんは、相場の変動はこれだけでは済まないと心配する。

 このうち、気がかりなのは「追い証」と「仕組み債」の存在だ。

 借り入れでレバレッジを利かせて投資していた投資家は、投資する資産が大幅に値下がりした場合、担保として差し出している証拠金を追加で差し出すよう求められる。これが「追い証」だ。証拠金を払うには、保有する別の資産を売ったり、借り入れたりしてお金を用立てる必要がある。

 つまり、別の資産の売却や値下がりを招くきっかけになる。

 また、「仕組み債」は、デリバティブ(金融派生商品)を使って比較的高いリターンが期待できる一方で、為替や株価の値動きの影響を受ける商品だ。あらかじめ定めていた一定の価格(トリガー価格)を割り込んだら、元本の大部分が毀損する契約のものもある。