銀行けん引、訪日客好調 円高で通期下振れリスクも 上場企業の4~6月期〔深層探訪〕

AI要約

上場企業の2024年4~6月期決算は好調で、大手企業の経常利益が前年比5.7%増の13兆1472億円を記録した。特に三菱UFJフィナンシャル・グループなど3メガバンクグループの利益が増加し、観光業や製造業も堅調だった。

先行きには警戒感が広がっており、米景況感の悪化や円高進行、金利上昇の影響が懸念される。業績の上方修正企業数は増えているものの、株価の下落や需要減がリスクとなっている。

24年4~6月期決算に関わる経営者の発言では、様々な業界からのコメントが寄せられ、為替や市況の変動への対応が重要視されている。

銀行けん引、訪日客好調 円高で通期下振れリスクも 上場企業の4~6月期〔深層探訪〕

 上場企業の2024年4~6月期決算が好調だ。SMBC日興証券の集計では、東証株価指数(TOPIX)採用の3月期決算企業のうち、5日までに発表を行った614社(開示率43.2%)の経常利益の合計は前年同期比5.7%増の13兆1472億円だった。国内外の金利上昇で銀行業がけん引し、訪日客需要も好調だった。ただ、このところ円高や株価の急変など市場の動きが不透明なほか、米景気減速懸念もあり、先行きには下振れリスクをはらむ。

 ◇上方修正優位

 日銀による3月のマイナス金利解除や企業の資金需要増を背景に、三菱UFJフィナンシャル・グループなど3メガバンクグループの純利益の合計は約16%増の1兆2165億円となり、3メガバンク体制以降で4~6月期として過去最高となった。7月末決定の追加利上げで通期予想も上振れする可能性がある。

 訪日客の観光需要も根強い。オリエンタルランドの売上高は同期として過去最高となり、新幹線が好調なJR東海の運輸収入もコロナ禍前の18年度を上回る水準だった。

 製造業では、半導体市況の回復が化学業界の収益を押し上げた。業績不振が続いていた住友化学の純損益は黒字転換し、佐々木啓吾常務執行役員は「非常に良いスタートが切れた」と振り返った。認証不正問題で国内の販売台数が減少したトヨタ自動車は、円安が利益を3700億円押し上げ、連結営業利益は過去最高を記録した。

 好調な4~6月期の実績を背景に、アドバンテスト、ニデックなどが通期業績予想を引き上げた。純利益を上方修正した日本製鉄の森高弘副会長は「鉄鋼需要は厳しいが、これまでの努力が実を結んだ」と強調する。上方修正の企業数は下方修正を上回って推移しており、通期の純利益予想の合計は、3期連続で過去最高益となった24年3月期と同水準を見込む。

 ◇先行きに警戒感

 一方、SMBC日興の安田光チーフ株式ストラテジストは「米景況感の悪化や、それに伴う円高進行で過去最高益更新が難しくなる可能性がある」と指摘する。

 米景気後退の恐れや日銀の利上げに積極的な姿勢が急ピッチの円高を招き、業績への期待が剥げ落ちた日経平均株価は、7月11日の最高値更新から短期間で大幅に水準を下げた。野村証券の小高貴久シニア・ストラテジストは「業績が上方修正されたにもかかわらず、株価の下方修正は異例」と話す。

 足元の企業の想定為替レートは1ドル=145円程度で実勢相場に近い水準だが、「145円を割ると下方リスクになる」(外資系運用会社)との声もある。円安で4~6月期に390億円の増収効果があった京セラの谷本秀夫社長は「このまま一本調子で(円高に)振れると困る」と先行きに警戒感を示した。円安で訪日客増加の恩恵を受けていた観光業も需要減が懸念される。

 金利上昇の影響も見過ごせない。6月の実質賃金は27カ月ぶりにプラス転換したが、住宅ローンの利払い費増加は現役世代へ打撃となり、個人消費の低下につながりかねない。企業の設備投資についても「現時点で計画を減速させる(借入金利)水準ではない」(大手証券)ものの、動向を注視する必要がある。

 米国は11月に大統領選も控える。同国での販売が全体の7割を占めるSUBARUの水間克之専務は「米国の動きには影響を受ける。いかに柔軟に対応できるかだ」と気を引き締めた。

 

 ◇24年4~6月期決算に関する経営者の発言

▽住友化学の佐々木啓吾常務執行役員

 赤字スタートを見込んでいたが、非常に良いスタートを切れた

▽日本製鉄の森高弘副会長

 鉄鋼需要は厳しいが、これまでの努力が実を結び上方修正できた

▽日産自動車の内田誠社長

 1円でも動くと影響がある。より安定的な為替が望ましい

▽京セラの谷本秀夫社長

 このまま一本調子で(円高に)振れると困る

▽日本航空の鳥取三津子社長

 極端な円安は、日本人海外旅行客への影響が大きい

▽SUBARUの水間克之専務

 米国の動きには影響を受ける。いかに柔軟に対応できるかだ