交通事故を起こした際、ディーラーがやたらと「新車購入」を勧めてくる理由

AI要約

事故による修理や車検のタイミングを通じて、ディーラーの営業マンが顧客に新車を提案する機会が増える。

営業マンは顧客との接触機会が少ないため、事故入庫は重要なチャンスであり、新車や整備の売り上げ目標を達成する機会になる。

保険金を利用してクルマの修理を自身で行うことで金銭的に得をすることもあり、営業マンはこの事例を活かして顧客に新車の乗り換えを提案する。

交通事故を起こした際、ディーラーがやたらと「新車購入」を勧めてくる理由

 クルマが古くなったり、車検のタイミングが来ると、ディーラーの営業マンは顧客に新車を提案する機会が増える。

 意外かもしれないが、事故で修理に出すタイミングも新車提案の絶好の機会だ。その最大の理由は、営業マンが顧客とじっくりとクルマについて話せるからだ。

 営業マンと顧客の接点は意外と少ない。担当者やディーラーに深い愛着を持つ優良顧客であっても、半年に1回の来店が多いほうだ。法定点検だけの入庫の場合は、年に1回の接触がいいほうだろう。

 そのため、事故入庫のタイミングは、営業マンが顧客と接触する貴重なチャンスとなるのだ。

 日々、時間と数字に追われているディーラーの営業マンにとって、担当顧客の事故入庫は

・板金修理による大口の整備売り上げ

・新車の受注

という面で大きなチャンスである。

 一般のユーザーにはあまりピンとこないかもしれないが、営業マンには新車販売だけでなく、整備入庫の受注目標もある。車検や法定点検の入庫台数だけでなく、その売上額にも目標が設定されている。

 車検や法定点検の売り上げは数万円だが、板金整備は1台あたり10万円以上の売り上げになることもある。さらに、自動車保険を使っての修理であれば、基本的に定価での請求となるため、売り上げ増が期待できる。

 新車、整備ともに売り上げ目標を課される営業マンにとって、事故入庫の顧客は、必死になるくらいの売り上げ対象なのだ。

 保険会社や保険の種類にもよるが、自動車保険の保険料は必ず修理代に充てなければならないという決まりはない。1回の交通事故で被った損害の補償を受ける権利は、自動車の所有者にあり、補償金をどのように使うかは彼らの自由である。

 つまり、事故による損害額が確定すれば、保険会社から支払われる補償金でクルマを修理する必要はない。補償金を現金で受け取り、自分で修理し、余ったお金を他のことに使うことができるのだ。

 実際、筆者(宇野源一、元自動車ディーラー)が事故の被害者になったとき、相手から受け取った補償金の一部をクルマの修理に使い、残りを他のメンテナンスに使った。クルマの損傷状況や修理方法にもよるが、この方法は金銭的に得をすることがある。

 営業マンはこのようなケースをいくつも知っているからこそ、顧客に新車への乗り換えを勧めるのである。顧客のクルマによっては、修理するよりも、そのままの状態で下取り車として引き取り、再販したほうが利益が出る場合もある。

 もちろん、傷の分だけ下取り価格は下がるが、下取り車と修理代は頭金として新車の購入価格に充当されるため、顧客が不利になることはない。そのため、営業マンは顧客に

「修理代はそのまま受け取って、新車に乗り換えませんか」

と提案するのである。