【為替介入における財務省の論理と思考】米CPI発表と同時に為替介入を行ったのはなぜか?日米金利差が縮小するタイミングで狙った最大の効果

AI要約

7月11日、12日に為替市場で大きな動きがあり、為替介入が観測された。財務省の介入の背景や必要性について検証する。

過去最大規模の介入をした後、日米金利差の縮小や投機筋による円売り圧力などが介入の判断に影響した。

米CPIの発表タイミングとほぼ同時に介入が行われ、インフレ鈍化による米長期金利の低下に対処した可能性がある。

【為替介入における財務省の論理と思考】米CPI発表と同時に為替介入を行ったのはなぜか?日米金利差が縮小するタイミングで狙った最大の効果

 米国時間の7月11日、12日、為替は1ドル161円台後半から157円台まで4円以上も円高に動いた。この背景に財務省による介入があったと言われるが、この背景にはどのような思惑があったのか。個人投資家・投資系YouTuberの森口亮さんによる、シリーズ「まるわかり市況分析」。森口さんが今後の介入の可能性も含めて解説する。

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 7月11日、12日と為替市場に大きな動きがあり、2営業日連続での為替介入観測が報じられています。正確には、7月末の財務省からの報告を待ちたいところですが、なぜこのタイミングで為替介入を行う必要があったのかを検証してみたいと思います。

 財務省は2024年4月29日から、9.7兆円規模の円買いドル売り介入を実施したことを報告しています。この過去最大規模の介入は、金額による大きなインパクトを市場に示しました。一時的に1ドル160円をつけた後に介入が入り、その後151円台まで円高ドル安が進行しましたが、6月後半には再び160円を越えていました。

 過去最大規模の為替介入を実施した翌月の5月末に行われたG7サミットでは、アメリカのイエレン財務長官が「介入は稀であるべき」と発言をしています。この発言により、政府と日銀にとっては介入の実行のタイミングがより難しい判断になったと考えられます。

 実際に1ドル160円を超えても動かない日本政府を尻目に、円安が進行し一時162円に迫る場面もありました。

 さらにこの間、日米金利差が縮小しており、教科書的な動きに倣えば円高ドル安になってもおかしくない状態の中で、逆に円安が進行しているのは、投機筋による円売り圧力が強かったために、介入実施の判断に至ったのではないかと考えています。

 1ドル160円を超えてからも財務省の神田真人財務官による口先介入は続いていましたが、その効果は限定的でした。

 市場で意識されていたのは「神田ライン」と呼ばれる介入実施の基準です。神田財務官は以前の発言で、「2週間で4%以上の変動」は明らかに投機的であり、対処を行うと述べていました。実際に4月の介入は、2週間で4%以上変動したタイミングで実施されました。

 このため、市場関係者は財務省において「2週間で4%以上の急変動」といった明確な基準があることを強く意識していたと考えられます。さらに意外だったのは、米国の主要な経済指標の発表時刻とほぼ同時刻に介入が行われた可能性が高い点です。

 この時に発表された米CPI(消費者物価指数)は、FOMC(連邦公開市場委員会)の金融政策に最も大きな影響を持つ経済指標です。その結果が前月比▲0.1%とインフレ鈍化を示したことで、早期利下げ期待から米長期金利が大きく低下し、日米金利差が縮小しました。このタイミングにドル売り介入を行うことで、投機的な動きを抑制し、値動きを大きくした可能性があるのではないでしょうか。