高松空港・小幡社長「旅客数だけがNo.1の指標じゃない」特集・三菱地所と空港民営化(2)

AI要約

高松空港は開港35周年を迎える国管理空港で、新たな需要開拓に力を入れている。四国瀬戸内地域の玄関口として、海外からの訪日客や国内のビジネス需要に対応している。

地元のニーズや潜在的な需要を掘り起こす取り組みとして、ベトナム市場や成田線に注力し、さらなる発展を目指している。

空港の目指す方向性は、単なる旅客数だけでなく、人とまちを元気にすることに重点を置いており、様々な取り組みを通じて価値を提供している。

高松空港・小幡社長「旅客数だけがNo.1の指標じゃない」特集・三菱地所と空港民営化(2)

 12月で現在の空港が開港35周年を迎える高松空港。1958年6月に供用を開始した旧空港は滑走路が1200メートルと短く、市街地に隣接していることから、1989年12月16日に新空港が開港し、滑走路長は2500メートルに延びた。2018年4月1日には、国管理空港では2番目に民営化され、三菱地所(8802)などが設立したSPC(特別目的会社)の高松空港会社が運営している。

 早朝の滑走路を歩く「ランウェイウォーク」を8月4日に開催し、8月29日から9月2日にかけては、同じく三菱地所が出資する北海道7空港を運営する北海道エアポートと連携し、高松-札幌(新千歳)間のチャーター便をフジドリームエアラインズ(FDA/JH)と飛ばすなど、新たな需要を掘り起こす高松空港会社。長期ビジョンは「アジア・世界とつながる、四国瀬戸内NO.1の国際空港」で、コロナ前の旅客数を上回る見込みの2025年度は、瀬戸内国際芸術祭や大阪・関西万博など、大型イベントが相次いで開かれる。

 今年は瀬戸内海が国立公園に指定されて90周年。コロナ後の旅客需要が回復基調となり、インバウンド需要も旺盛な中、四国の玄関口となる高松空港はどう動いていくのか。「四国瀬戸内NO.1」の空港を目指す上で、旅客数だけが指標ではない、と力説する高松空港会社の小幡義樹社長に聞いた。

◆旺盛な訪日需要、ベトナムに地元ニーズ

 四国の玄関口と言える高松は、瀬戸大橋が1988年に全線開通する前、岡山県からの宇高連絡船が着く高松駅が各地への起点として機能していた。2019年6月に高松空港会社の社長に就任した小幡氏は「連絡船時代の鉄道網が残っているのはありたい」と話す。

 海外からの訪日客が、かつての団体客中心から個人旅行へシフトしていく中、高松空港へ就航する海外の航空会社や旅行会社の幹部から、小幡氏は口々にこう言われたという。

 「高松空港はバスで高松駅に出ればどこでも行ける、と同じ時期におっしゃっていただいた。なんとなく感じていたことだったが、確信に変わった。高松駅に出れば四国だけでなく岡山にも、大阪にも、九州にも行ける」と、高松空港の地の利の良さを強調する。

 「2023年5月の5類移行後、ソウルや台北の便が飛び始めたが、ここまで順調に復便するとは思っていなかった」と話す小幡氏は、これまでの国際線就航を振り返ると、ある法則性があるのではないか、と指摘する。

 「過去に就航した国際線を調べてみると、ソウル線は1990年代からあり、上海線は2011年に就航した。2010年の中国からの訪日客は140万人台だったと思うが、その翌年に上海から高松への直行便が就航したことになる。その後、台北や香港から定期便が就航するが、何か偶然の一致なのか、法則性があるのかはわからないが、定期便が高松へ就航した前年の我が国への訪日客数は、やはり140万人から150万人だった」と、日本全体の訪日客数がこのレベルに達すると、地方空港への直行便が就航し始める、という仮説だ。

 中国や韓国、台湾、香港といった東アジアの地域はもともと日本との往来も多く、高松空港へ降り立つ訪日客数も急回復している。「そういう意味では、東南アジアはタイが2019年に130万人くらいだったので、訪日客数が140万人、150万人くらいになると、地方空港へ流れてくるのではないか。タイはもう近いところまで来ていると思う」と、タイからの定期便就航も現実味を帯びてきそうだ。

 「ベトナムやインドネシア、マレーシアといったその他の国々は2023年は訪日客数が増えたようだが、まだ5、60万人。そういう意味では、これからの市場だと思っているが、香川県に住んでいる外国人ではベトナムの方が多いと聞いており、仕事で来ている方もいるので、観光需要だけではなく、地域のニーズとしてベトナムはみなさんおっしゃっているので、ベトナム市場もウオッチしていきたい」と、ベトナムは重点市場のひとつだという。

 こうした地元のニーズだけでなく、ベトナムの人たちに香川県や四国地方の魅力を知ってもらう取り組みを仕掛けていくことも重視しているという。「やっぱり見ていただき、経験していただくのが大事だと思っているので、機会があればチャーター便を誘致する活動をやっているので、これからも継続していきたい」という。

◆県立アリーナで需要創出

 旺盛なインバウンド需要に対し、国内線はコロナ前と比べて9割までは回復するものの、そこから先の戻りが遅いというのが、日本全国の全体的な傾向だ。高松空港の場合はどうなのだろうか。

 「出張へ行ってるよ、という話はよく聞くが、コロナ前と比べると人数や回数が減っているようだ。マーケットとしてはどうしても縮小傾向にある中で、どうやって穴を埋めていくのかがこの1年の課題となっている」と、国内の出張需要はコロナ前と同等のレベルに回復するのに時間がかかるか、あるいは完全には戻りきらないことも視野に対応していく必要があるという。

 「調査をしたわけではないが、いろいろな人の話を総合して、私の推測で言えば、ビジネス需要はまあまあ戻ってきているのではないか。戻ってきていないのはMICE(会議、インセンティブ旅行、コンベンション、展示会)だ」という。

 背景には、オンライン会議の普及による学会などのハイブリッド開催が影響しているといい、「例えばコンサートは結構お客様が戻ってきているが、さまざまな分野の学会がハイブリッド開催になっている影響が出ていると思う。ものを売ったり買ったりといった訪問は戻りつつあるが、業界団体の集まりを地方で開催するにしてもハイブリッド化の影響はあるだろう」と、現地参加とオンライン参加を選択可能なイベントが増えていることが、国内線の需要が戻りきらない要因ではないかと、小幡氏は指摘する。

 こうしたMICEの需要回復に向けて期待を寄せているのが、2025年3月に開館予定の香川県立アリーナ「あなぶきアリーナ香川」だ。高松駅や高松港、ホテルなどで構成される「サンポート高松」地区に建設中の屋内体育館で、中四国地方最大の収容人数を誇るといわれる。

 「コンサートやコンベンションなどを誘致すれば、イベントに参加する方が増える。県立アリーナを利用する方に羽田線や成田線に乗っていただけるといいなと思っている」と、四国全域や関西・中国方面へのアクセスがいいサンポート地区にできることで、新たな人の流動が生まれることに期待を寄せた。

◆潜在需要ある成田

 一方で、羽田線は羽田空港の発着枠が限られていることから、航空会社が増便することは容易ではない。

 「出張需要の回復は成り行きを見守るしかないが、観光はワーケーションのような誘客をやっていく。コロナ前からの取り組みだが、便数を増やすのは難しいかもしれないが、機材の大型化で提供座席数を増やしていただく。コロナ前は日本航空(JAL/JL、9201)が1日2往復をボーイング767で運航していたが、いまは機材の退役などもあり737になっている」と、機材の大型化で羽田線の利用者を増やしていきたいという。

 羽田線の供給拡大が限定的となる中、「潜在的な需要があると思っているのが成田線だ」と、2013年12月10日に就航したジェットスター・ジャパン(JJP/GK)の成田-高松線に期待を寄せる。「就航10周年を迎えたが羽田線の需要を食っていない。どこを食ったかと言えば、夜行バスではないか。若い人を中心に夜行バスからLCCに流れたのではないか」との見方を示した。

 「若い人だけでなくシニア層にも広がっている。多分10年前はシニア層でスマートフォンを使う人が少なかったが、今のシニア層は使える人が多い。東京の孫に会いに行くという人たちも、今までは年に2回だったが、同じお金で4回行ける、と効果が出てきたので、シニア層の方にどんどん使っていただけると、(成田線は)まだまだ伸びるんじゃないか。羽田も増えてほしいし、増えると思うが、ポテンシャルがあるのはLCCではないか」と指摘する。

 また、札幌や仙台への直行便に対する期待が地元で大きい。「羽田で札幌線に乗り継げるが北海道へ直行便で行きたいという声があり、もう一つが仙台だ。仙台は羽田で乗り継げないので、東京駅に出なければならない」と、国内で首都圏以外の要望を聞いていくと、札幌や仙台が挙がるという。

◆旅客数だけがNo.1の指標じゃない

 民営化から6年が過ぎた高松空港は、今後どのような空港を目指すのだろうか。「コロナで暇になってしまった時に、青臭い話をまじめにしよう、となった。『うちのミッションはなんだ』となり、空港から人とまちを元気にする、という言葉を作った。提案書では四国瀬戸内NO.1の空港を目指すとしているが、空港から人とまちを元気にした時に、おのずとナンバーワンになるんじゃないの、という話をした」と小幡氏は明かす。

 四国観光協会連合による「四国おもてなし感激大賞2023」では、ターミナル内の店舗「四国空市場(YOSORA)」が大賞を受賞。高松市に住む男性がエピソードを投稿したもので、県外の友人が亡くなり弔問に向かう際、一緒に食べたカレーうどんをお供えにしようと土産用を探していたが、当時はコロナの影響でやっと見つけた売店が臨時休業だった。あきらめきれなかった男性が、隣接する店舗の店員に相談したところ、あちこちに連絡をとって最終的に休業中の店舗からカレーうどんを買えたという。

 小幡氏は「私たちが全然知らないところでエピソードを投稿していただいた」といい、高松空港で働く人たちにとって励みになったという。

 「四国瀬戸内NO.1というと、旅客数が何人とか、すぐそっちに話がいってしまうけど、ナンバーワンってそこだけじゃないよね、と。あのお店はこの辺の空港で一番いいお店だね、とか、社員ががんばればがんばるほど、喜んでくれる人や元気になる人がいるというのが、一番やりがいになる。スコアで測れるものではないが、そういうことだと思う」と、小幡氏は「ナンバーワン」が何を指すのかを語る。

 「自分の頭で考えて工夫をすると、結果につながると思う。それを誰かがナンバーワンだと褒めてくれるものではないかもしれないが、みんながプライドを持って働ける会社になりたい。どこの部署で働いていても、いい仕事をすれば飛行機に乗るお客様だけでなく、地域やまちが元気になる、そういう会社にしていきたい」と、決意を語った。