〈スポットワークで進む仕事の低価格化〉日本の経済競争力回復には、「スキマ学び」で仕事の付加価値創造を

AI要約

スポットワークは2024年前半に普及した、空き時間を利用した短期のバイトサービス。

仕事決定は応募順であり、労働基準法に基づいた雇用契約が主流。

スキルアップと学びを重視し、先進国の経済を支えるための取り組みが必要。

〈スポットワークで進む仕事の低価格化〉日本の経済競争力回復には、「スキマ学び」で仕事の付加価値創造を

 単発のバイトをネットで求人するサービス「スポットワーク」は、2024年前半に一気に普及した。スタートアップ企業が開拓した働き方で、多くの場合は、空き時間を利用して最短1時間から働くことができる。言い方を変えれば「スキマバイト」というわけである。通常のアルバイトの場合、履歴書や面接などでの選考があるが、スポットワークでは多くの場合に応募すれば先着順で仕事が決まる。

 また、法的な契約関係は業務委託ではなく、雇用契約となっている場合が多く、労働基準法により労働者は守られる。その内容は飲食店、コンビニなどのサービス業、更には倉庫作業、配送、引っ越し、オフィスワーク、清掃などさまざまだ。事務作業の場合もあるが、初心者でも対応可能な内容が主である。

 求人サービスによってアプリの設計は異なるが、働くエリアや時間帯、拘束時間などから検索することも可能で、個人の事情に合致した仕事をサーチすることが可能だ。気に入った仕事があれば、アプリから応募すると瞬時に仕事が確定する。給与は仕事が完了すれば、直後に振り込まれることが多い。こうした手続きの簡易さや空いた時間に収入を得られるという利便性の高さから、若者に広く活用され、最近では高齢者も利用する人が増えてきている。

 この種のスポットワークだが、ある意味では作業レベルの仕事の切り売りであるし、需給バランスということでは「買い手市場」でもあることから、下手をすると人件費のデフレを加速する危険性もある。では、日本経済の競争力回復にはマイナスかというと、必ずしもそうではない。大切なことは、これまで各業種、各企業が「企業文化」などといって自己流の進め方をしていた仕事について「誰でもできる標準化」が進むということだ。

 例えば清掃にしても、安全衛生の観点が守られる範囲内で、機械化を伴いつつ標準化が進み、そこに効率的に人力が配置できれば生産性は上がる。事務作業にしても、本来は単純なものである文書整理、財務会計や税務の作業などを、自己流を貫くために手作業を行っていた企業は多い。情報セキュリティの問題をクリアした上で、徹底した標準化とDX化が入り、必要な人力はスポットワークで補うという方法論は生産性の向上に寄与するのは間違いない。

 けれども、これからの日本が目指すのは中進国の地位に安住することではない。そうではなくて、大卒比率50%という高い教育水準を誇る社会に本来のリターンを求めるのであれば、あくまで先進国の経済を維持する必要がある。そのためには、基礎能力の高い人材には「スキマバイト」で当面の収入を確保するだけでなく、「スキマを使った学び」を追求して、先進国型の高付加価値人材へと成長してもらう必要がある。

 例えばシンガポールの場合には、高度事務職には大卒レベルの知識では不十分だということを国策としている。具体的には、終業後の夜間や週末などに大学院レベルの学習を奨励し、補助金を広く支給している。

 そのような「学び」を通じて、例えば経理部員は公認会計士や会計学の修士号を、法務部員は司法試験をというように、ステップアップをしてゆくのだ。個々人のステップアップは、やがて国の国内総生産(GDP)の拡大につながる。

 グローバル金融とAIが全産業を支配する時代となりつつある中では、先進国経済を維持するには準英語圏入りが欠かせない。その場合の個々人のスキルアップも急務であり、新しくプログラミングを学ぶとか、会計士を目指す場合には、最初から英語で学ぶプログラムで人材を整備する必要があるだろう。マネジメントスキルなどもそうだ。

 現在も既に始まっているが、今後の日本のビジネスの現場は、マネジメント上の判断や知的付加価値創造については英語で行われ、しかもそのチームはどんどん多国籍化するだろう。その一方で、日本という社会に根ざした現場の作業はどんどん標準化され、場合によってはスキマバイトを併用しながら効率化が進むだろう。