【社説】税収過去最高 国と企業は潤っているが

AI要約

円安を追い風に国や企業の財布は潤っている。だが、家計の物価高に対する賃上げが必要。

2023年度の国の税収は過去最高を更新し、法人税の増加が主要要因。

企業は利益を増やし、賃金の上昇が追い付かない実質賃金はマイナス。賃上げが不可欠である。

【社説】税収過去最高 国と企業は潤っているが

 歴史的な円安を追い風に国や企業の財布は潤っている。これを「経済の好循環」につなげるには、物価高に苦しむ家計を大幅な賃上げで温めなければならない。

 財務省によると、2023年度の国の一般会計税収は72兆761億円となり、4年連続で過去最高を更新した。補正予算編成後の税収見込みを約2兆5千億円上回り、初めて72兆円台に乗った。

 借金頼みの財政運営の中で歳出の不用額と合わせ、赤字国債発行を9兆5千億円分減らせたのは朗報だ。

 税収増加の主な要因は、企業の好業績を背景に法人税が税収見込みを約1兆2千億円上回り、前年度より約9千億円増えたためだ。消費税、所得税を加えた主要3税で法人税の伸びは際立つ。

 法人税の増加は、円安によって輸出企業の業績が押し上げられた影響が大きい。

 それだけではない。原材料費の上昇や人件費の増加を価格に転嫁する動きが広がり、企業が利益を増やしている側面も見逃せない。

 高いインフレに見舞われた欧米では、企業がコストの上昇を上回る値上げをして利益を増やす現象を「強欲インフレ」と呼ぶ。

 日本の現状はこれに似た状況である。実際に、円安で物価高が進む中でも企業業績は全体として堅調だ。

 四半期別法人企業統計調査によると、23年度の経常利益は過去最高だった22年度を上回って推移した。

 これに対し、賃金の上昇は十分とは言えない。23年度の名目賃金は3年連続で増えたものの、物価を反映した実質賃金は前年度比2・2%減だった。実質賃金のマイナスは2年連続で、マイナス幅は広がった。

 実質賃金のマイナスは今年5月まで26カ月連続で、過去最長となっている。物価の上昇に賃金の伸びが追い付かない状況が長引き、個人消費の低迷につながっているのは間違いない。

 実質国内総生産(GDP)の過半を占める個人消費は、24年1~3月期まで4四半期連続で前年割れとなった。個人消費の低迷の影響で実質GDPは伸び悩んでいる。局面を打開するには、大幅な賃上げで実質賃金をプラスに転換することが不可欠だ。

 労働組合の連合によると、今春闘の賃金改定率は33年ぶりに5%を上回った。定期昇給を除くベースアップによる賃上げは3%台にとどまる。労組がない地方の企業はもっと低いとみられる。これで物価の上昇に打ち勝てるかは不透明だ。

 増益企業には、賃金をもっと引き上げる体力が十分にある。利益を増やすより、賃金への配分を重視すべきだ。

 バブル崩壊後、日本経済の低迷が続いたのは、経営者が賃金をコストと見なし賃上げを長く抑制した結果である。「失われた30年」を招いた過ちを繰り返してはならない。