亡父が残した「お宝はガラクタ?」相続評価のお値段は

AI要約

88歳男性が亡くなり、実家には趣味で集めた大量の骨董品が残され、相続人の兄弟がその評価に悩む。

相続財産の中に含まれる骨董品の評価方法や税金の取り扱いについて、税理士の広田龍介さんの解説が示唆に富んでいる。

最終的に兄弟は、熱意を持って収集してきた父親の思いを大切にしつつ、家財道具一式として100万円で評価することを決めた。

亡父が残した「お宝はガラクタ?」相続評価のお値段は

 88歳男性が亡くなり、実家には、趣味で集めた大量の骨董(こっとう)品があふれ、相続人となった子はその相続財産の評価に悩んで……。税理士の広田龍介さんの解説です。【毎日新聞経済プレミア】

 ◇コレクションへの投資額は?

 不動産賃貸業を営んでいたSさんが88歳で亡くなった。相続人は長男(60)と次男(57)の2人。主な財産は不動産と現預金だが、Sさんは骨董品収集を趣味としており、実家にはガラクタにしか思えない骨董品が大量に残された。相続手続きにあたり、兄弟はそれをどう評価すればいいのか悩んでいる。

 代々の農家に生まれたSさんは家業を継いだが、30年ほど前に不動産賃貸業へ転業した。それでも、先祖から受け継いだ道具や家具には愛着を持ち、納屋で大事に保存してきた。

 古いものを大切にするという気質はやがて趣味へ転じたようだ。Sさんは古道具屋や骨董市を足しげく回っては珍しいものを集めるようになった。

 こけしなどの民芸品から、古銭、茶わん、浮世絵などの古美術品まで、面白そうなものがあれば買い求めてきた。

 こうして実家にはモノがあふれ、Sさんは一部屋をコレクションルームに充て、それを眺めては悦に入っていた。

 兄弟らはSさんの生前、その自慢話にしばしば付き合わされたものだ。「この掛け軸は30万円で手に入れたが、もっと価値がある」というSさんに対し、兄弟は「それならプロの古道具屋が手放すはずがないだろう」という思いをのみ込み、黙って聞いていた。

 Sさんはコレクションにどれくらい投資してきたのだろうか。

 兄弟がSさんの通帳記録をみると、現金の引き出しは1回あたり約30万円だった。おそらく骨董品1点の購入額もその程度だったのだろう。収集のために使われた総額は1000万円前後のようだった。

 それくらいなら、購入金額で評価しても納税には困らないだろうと、兄弟は安堵(あんど)した。

 だが、Sさんには自慢のコレクションであっても、兄弟にはガラクタとしか思えない。実家を片付けることを考えれば、粗大ごみとして早く廃棄処分したいところだ。

 その一方で、父があれだけ熱意を傾けたものをあっさり捨てるのはしのびないという思いもある。とりあえずしばらく残しておくことで、兄弟の意見はまとまった。

 ◇「書画骨董品」の評価法

 問題は、相続税申告で、この大量の骨董品をどう評価すればいいのかという点だ。兄弟は税理士に相談した。

 まず、相続対象の財産には、不動産や動産などがある。土地や建物など固定された資産以外で形があるものが、動産だ。

 相続産の評価方法は、国税庁が「財産評価基本通達」で示している。それによると、動産でも、美術品・骨董品は「書画骨董品」として、一般の動産とは別の扱いになっている。美術品・骨董品は一般の動産と異なり、時間が経過しても価値が減少しないためだ。

 その評価方法は2通りある。

 まず、販売用に業者が所有しているものは、棚卸商品と同様に販売価格から適正利益と販売までの予定経費を差し引いた金額で評価する。販売用でないものは、売買の実例や専門家の意見を考慮して評価する。

 通常、美術品・骨董品は減価しないが、保存状況が悪い場合は、原状回復費用を控除することもあるという。

 税理士が取り扱ったあるケースでは、相続財産に有名画家の絵画があったが、染みやカビがあるなど保存状態が悪く、専門家に鑑定してもらい、原状回復費用を考慮して評価することになったという。

 ◇「家財道具一式」の評価が一般的

 だが、これは、あくまで価値の高い美術品・骨董品であることが前提だ。

 Sさんが趣味で買い求めたものは、価値が低いものがほとんどで、贋作(がんさく)やコピー品も少なくないようだ。そこで、一般の動産という扱いになる。

 一般の動産については「1個や1組」を単位に評価し、5万円以下のものは、まとめて一括評価してもいいことになっている。

 これも、売買の実例や専門家の意見を考慮して評価するのが原則だが、それでは実務上、あまりにハードルが高くなる。

 そこで、簡便法として、相続が生じた時期に購入した場合の金額から、実際に購入した時期からの減価償却額を控除して評価すればいいことになっている。この結果、時間経過とともに価値が大きく減り、時価が5万円を超える動産は少なくなる。

 価値がありそうなものは一品ごとに評価するが、通常は、大型家電、家具、ピアノ、パソコンなど一般の家庭用財産は「家財道具一式」として10万~50万円で評価することが一般的だという。

 その評価額はどうやって決めればいいのか。兄弟は税理士に聞いた。

 税理士によると、自宅を訪問した際、家の構え、玄関・応接室の調度品(絵画や置物など)、亡くなった人(被相続人)の趣味や配偶者が身に着けている指輪などの貴金属などから判断して決めることが多いという。

 税理士は「特殊なケースを除けば、家庭用の動産は家財道具一式としてざっくり10万~50万円で対応しており、それでよいのではないか」という。

 兄弟は、税理士の説明を十分理解したうえで、2人で話し合って「100万円」で評価することを決めた。Sさんの収集への熱意を大切にしたい、という思いからだった。