「百貨店閉店でにぎわいが消えた」キャンペーンに、新聞が“チカラ”を入れる理由

AI要約

地元で長く愛されてきた百貨店が閉店し、街のにぎわいが消える現象が続いている。島根県の唯一の百貨店「一畑」が閉店したことで、街の活気が失われた様子が報じられている。

同様に、埼玉ローカルの百貨店も閉店が決まり、地元住民から中心市街地の空洞化を懸念する声が上がっている。このような現象が起きている背景には、人口減少が深く関わっている。

2023年には59万5000人の人口減少があり、地方都市のにぎわいが消失し、それに伴い百貨店の閉店も増えている。新聞では「百貨店が消えたら地方はおしまい」という終末論が広がっているが、実際には逆の関係性がある可能性が高い。

「百貨店閉店でにぎわいが消えた」キャンペーンに、新聞が“チカラ”を入れる理由

 地元で長く愛されてきた百貨店が閉店したことで「街のにぎわい」まで消えてしまいましたとさ――。最近そんな暗いニュースが続いている。

 分かりやすいのは『南日本新聞』(6月24日付)の記事だ。2024年1月、島根県で唯一の百貨店「一畑」が閉店。そこから街がどう変化したのかを現地取材し、こんな風に報じた。

「百貨店が消えたまちを歩いた。にぎわいは程遠く、駅前は活気を失った。若者はそっけなく『買い物はイオンか通販』…高齢女性は本音を漏らした『やっぱり「一畑」の紙袋で包んで渡したい』」(6月24日 南日本新聞)

 ほぼ同じ時期に『朝日新聞デジタル』も、埼玉ローカルの百貨店が閉店することを受けて、住民の不安をこんな調子で取り上げている。

「丸広百貨店(本店・埼玉県川越市)の東松山店が、建物の老朽化や売り上げの減少のため、8月に閉店することになった。現在地に店を構えて半世紀以上。地元からは中心市街地の空洞化を懸念する声があがる」(6月22日 朝日新聞デジタル)

 では、なぜこのような「百貨店が消えたら地方はおしまいだ」という「ノストラダムスの大予言」のような終末論が増えてきているのか。それは、2024年5月に話題となった「山形屋ショック」の影響も少なくない。

 鹿児島県唯一の百貨店にして、創業270年の名門企業である山形屋が借入金の返済に行き詰まり、グループ会社16社とともに私的整理の一種である「事業再生ADR手続き」に入っていると報じられた。百貨店業界以外にも大きな衝撃を与えたのは記憶に新しいところだ。

 その後、事業再生計画は成立。山形屋は現在も営業しているが、「また経営が傾いたら閉店するのでは」という市民の不安が払拭(ふっしょく)されたわけではない。そこで前述したように鹿児島の地元紙『南日本新聞』が、「百貨店ゼロ県」の島根県松江市へ取材に行った。つまり、この記事は「山形屋再建」をテーマにした連載で、「百貨店がなくなった街がどんなに寂しいか」ということを鹿児島市民に知らしめる目的でつくられたものなのだ。

 このような話を聞くと、なぜ新聞はそんなに「百貨店閉店でにぎわいが消えた」という方向へ話を持っていきたいのかと不思議に思う人も多いはずだ。

 前出『南日本新聞』の記事に対して専門家なども指摘しているが、今日本の地方都市で起きている現象は「百貨店閉店でにぎわいが消えた」ではなく「にぎわいが消えたから百貨店が閉店した」が正しい。

 では、なぜ“にぎわい”が消えたのかというと、ごくシンプルに人口減少だ。

 2024年4月に総務省が発表した人口推計によると、2023年は前年比で59万5000人減っている。これは山形屋のある鹿児島市の人口と同じだ。