ウクライナのクルスク侵攻に必死で強気を取り繕うプーチン、防御線の脆弱さは「スロビキン更迭」の報い

AI要約

ウクライナ軍がクルスク州への侵攻を開始し、プーチン大統領は複雑な任務に直面している。

ウクライナ軍はスミルノフ知事代行との衝突を報告し、市民軍やガソリンスタンドの支援を行っている。

ゼレンスキー大統領はクルスクを和平交渉のカードとして利用する戦略を取っており、国際法を遵守しながら行動している。

 (国際ジャーナリスト・木村正人)

■ 「クルクスには予期せぬ複雑な任務が課せられている」

 [ロンドン発]8月6日早朝に始まったウクライナ軍のロシア西部クルスク州侵攻はすでに10日以上が経過した。作戦に参加するウクライナ軍の規模は1万人、国境から35キロメートルの深さまで進み、支配地域は1000~1500平方キロメートルと報じられるが、真相は藪の中だ。

 ウクライナ軍の奇襲攻撃に面子を潰されたウラジーミル・プーチン露大統領は8日、クルスク州のアレクセイ・スミルノフ知事代行とのビデオ会議で「苦境にある人々を援助するため、予期せぬ複雑な任務が課せられている」と述べた上で状況報告を求めた。

 スミルノフ氏は「8月6日午前5時、ウクライナ軍が歩兵と装甲車で国境を突破し、ロシア連邦の領土であるクルスク州スジャを攻撃した。ウクライナの破壊工作、偵察グループは、住民を避難させているロシアの民間人や救急車に向かって発砲した」と報告した。

 装甲車代わりに市民軍に銀行の現金輸送車が80台以上提供され、ガソリンスタンドには電子戦システムと装甲防御を施すという。プーチンは「必要な人に1万ルーブルずつ支給される。クルスクは困難を克服し、状況を好転させるために全力を尽くすだろう」と応じた。

■ 「必要な場合にはクルスク州に軍司令官事務所を設置する」

 14日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はクルスクの戦況について会議を開き、ウクライナ軍のオレクサンドル・シルスキー総司令官から報告を受けた。シルスキー総司令官は「必要な場合にはクルスク州に軍司令官事務所を設置する」と表明した。

 ゼレンスキー氏は「国境地帯の住民の生命を守るため、ウクライナは自衛権を行使し、ロシア領内で積極的な行動をとっている。しかし、ウクライナ軍は国際条約と国際人道法の要件を厳格に順守している」と強調した。

 ゼレンスキー氏にはクルスク州の一部領土を占領し、プーチンとの和平交渉のカードにする思惑がある。解任したワレリー・ザルジニー前総司令官(現駐英大使)とシルスキー現総司令官を対比させ、大統領選の最大のライバルと目されるザルジニー氏を貶める狙いもあるかもしれない。

 人気コメディアンから大統領に転じたゼレンスキー氏はギャンブラーだ。クルスク州侵攻のダウンサイドリスクは決して無視できない。米紙ウォールストリート・ジャーナル(8月15日)は早くも「ウクライナ軍がロシアに侵攻する中、東部戦線では窮地に陥っている」と伝えている。