ウクライナの越境攻撃 欧米巻き込み、ロシアと対立激化のリスクも

AI要約

ウクライナ政府はロシアに対する越境攻撃の戦果を交渉材料に利用し、停戦協議に向けた意向を示している。

ウクライナ軍はクルスク州への攻撃を展開し、ロシア支配地域を奪取していると主張している。ウクライナはロシアとの停戦協議を勝ち取るために越境攻撃の成果を利用したい考え。

米欧各国はウクライナの行動を注視しつつも、ロシアの対応に懸念を抱いている状況。ウクライナは戦略的敗北を挽回し、停戦協議で有利な条件を得るため、攻撃を続けている。

ウクライナの越境攻撃 欧米巻き込み、ロシアと対立激化のリスクも

 ロシアの侵攻を受けるウクライナ政府は16日、露西部クルスク州への越境攻撃の戦果を、停戦協議に向けた交渉材料に利用したい考えを示した。だが、ロシア側は強く反発しており、ウクライナを支援する米欧を巻き込んだ対立が激化するリスクもある。

 ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は16日、通信アプリ「テレグラム」に「我々はロシアに大きな戦術的敗北を与える必要がある。ロシアを公平な交渉に向かわせるため、クルスクで軍事力がどのように使われているかは明らかだ」と投稿した。越境攻撃の戦果を、自国に有利な条件でロシアとの停戦協議を開始するための交渉材料にしたい意向を明示した。

 ウクライナ軍は今回の越境攻撃に数千人規模の兵士を投入しているとみられ、ロシアは西側の兵器が使用されていると主張している。

 ウクライナ軍のシルスキー総司令官は16日、自軍部隊がクルスク州の複数の地域で1~3キロ進軍し、ウクライナ国境から約11・5キロのマラヤロクニヤ地域で戦闘が続いていると説明。「戦況は計画通り進展している」と述べた。

 また、ゼレンスキー大統領は15日、ロシアから欧州への天然ガス輸出の拠点となっているクルスク州の要衝スジャを制圧したと主張。ウクライナ軍は8月6日の越境攻撃開始以降、州内の82集落、1150平方キロを統制下に置いたとしている。事実であれば、札幌市の面積に匹敵する広さだ。

 越境攻撃は、露軍の対ウクライナ攻撃の拠点に打撃を与える「自衛目的」を大義名分としており、欧米各国は静観している。ウクライナ政府高官は14日、クルスク州に防衛のための「緩衝地帯」を設ける考えも示した。

 米政府はこれまで、ウクライナ軍に対して、米国が供与した長距離ミサイルでのロシア領内への攻撃は認めてこなかった。だが、今回の越境攻撃については、公の場では賛否を表明しておらず、情勢を注視している模様だ。米ホワイトハウスのジャンピエール報道官は13日、ウクライナから越境攻撃について事前通告はなく、米国は関与していないと記者団に語った。

 ウクライナ軍には、停戦交渉を見据えた狙いのほか、露軍の兵力分散や、自軍捕虜の解放で交換対象となる敵軍捕虜の獲得を目指す思惑もあるとみられる。ただ、ウクライナ側はスジャへの軍司令官事務所設置を表明するなど、越境が長期化して戦闘がエスカレートする可能性は否定できない。露領内での攻勢がさらに拡大すると、ロシアが戦術核の使用をちらつかせる懸念もある。

 カービー米大統領補佐官は15日の記者会見で、「ウクライナの軍事作戦について語るつもりはない」とした上で、「ロシアがウクライナでの作戦に従事していた一部の部隊をクルスク州周辺に再配置している」と述べ、越境攻撃が既に戦況全体に影響を与えている可能性を示唆した。一方、ロシアが核兵器の使用を準備している兆候は見られないとしている。【ブリュッセル宮川裕章、ワシントン松井聡】