北朝鮮・金正恩氏の水害現地視察で浮かぶ統治の限界、パリ五輪では南北朝鮮選手が交流

AI要約

北朝鮮で起きた大規模な水害について、朝鮮中央通信が報じ、金正恩総書記が現地を訪れたが、細部に疑問が投げかけられている。

中国との国境にある鴨緑江が氾濫したことが原因である可能性が高い。北朝鮮は中国からの水資源を不法に取水しているという批判がある。

灌漑施設整備から指導者の責任まで、水害の背景には北朝鮮政府の政策や運営の問題が見え隠れしている。

北朝鮮・金正恩氏の水害現地視察で浮かぶ統治の限界、パリ五輪では南北朝鮮選手が交流

北朝鮮の朝鮮中央通信は、中朝国境地帯の平安北道で7月27日、大規模な水害が発生したと報じた。現地で陣頭指揮を執った金正恩総書記は8月2日、水害を巡る韓国側の報道を「捏造だ」と非難し、敵意をむき出しにした。同じころ、パリ五輪では北朝鮮選手が韓国など各国選手と交流している姿が伝えられている。一体、どちらが本当の北朝鮮の姿なのだろうか。(牧野愛博=朝日新聞外交専門記者)

朝鮮中央通信が7月28日に配信した22枚の写真群は、「わが身を顧みず、人民のために奔走する最高指導者」の姿をアピールするものだった。金正恩氏は濁流のなか、乗用車で被災地を見て回った。ヘリで救助されてきた北朝鮮の人々を自ら出迎えた。

だが、北朝鮮を逃れた元朝鮮労働党幹部は、写真群をみて嘆息した。「最高指導者を危険な場所に行かせることは絶対にない。金正恩の前に濁流に入って、安全を確認した担当者が必ずいる」

ヘリで運ばれた被災者たちは走りながら両手を上げ、遠くで見守る金正恩氏にあいさつした。元幹部は「これも演出。事前に最高指導者がいることを伝え、あいさつするよう指示しているはずだ」と指摘する。「金正恩が報告を受けて現地に到着するまで24時間から48時間はかかる。場合によると被災者はサクラだったかもしれない」という。

金正恩氏は今回の災害で国や地方の幹部らを強く批判。社会安全相を更迭した。ただ、この人事も場当たり感が否めない。

今回の水害は中朝国境を流れる鴨緑江が氾濫したのが原因だとみられている。

鴨緑江を巡っては、昔から中国が「北朝鮮が不法に取水している」と批判してきたため、北朝鮮は地下トンネルを作って、目立たないように取水してきた。トンネルのため、流せる水量に限界があったとみられる。また、北朝鮮は金日成主席の時代に灌漑(かんがい)施設を整備。「朝鮮では日照りも洪水もない」と自画自賛したことがある。最高指導者の承認なく、こうした施策は取り得ない。まず、金正恩氏自らが責任を問われるべき問題だと言えるだろう。