「日本の介護は素晴らしい。しかし…」急速に高齢化する中国で「日本ブランド」はどこまで通じるのか?

AI要約

中国最大の介護福祉展示会「AID」が盛況を収め、日本企業の参加が多かった背景を考察。

中国の高齢化が進む中、介護事業への参入が急増しており、市場規模も拡大している。

しかし、中国の介護施設の入居率の低さや社会保障制度の未整備など、日本企業が中国市場でビジネス展開する障壁が存在。

「日本の介護は素晴らしい。しかし…」急速に高齢化する中国で「日本ブランド」はどこまで通じるのか?

 長年、日本と中国の介護ビジネスに携わってきた筆者は、今年6月中旬に中国・上海で開催された中国最大級の国際介護福祉展「AID」(旧称:China Aid)を訪問した。コロナ禍後、久しぶりの中国訪問で、多くの地元介護事業者と対話する機会を得た。本記事では、改めて感じた中国と日本の介護事業者間のギャップ、そして中国市場で介護ビジネスを展開しようとする日本企業の課題についてレポートする。(日中福祉プランニング代表 王 青)

● 急成長する中国の福祉介護展示会

 「AID」は2000年に始まった展示会で、中国の急速な少子高齢化と歩調を合わせるように大きく成長し、東京で開催されるアジア最大級の「国際福祉機器展H.C.R」を追い抜く勢いを見せている。主催者によると、今年は出展社数、来場者数ともに過去最高を記録したとのことだ。各ブースには人だかりができ、会場内の熱気は中国の福祉介護・高齢者ビジネスの盛り上がりを如実に物語っていた。

 海外からも多くの国・地域が参加する中、日本は過去最多の73社が出展し、最も出展社の多い国となった。車いすやベッドなどの福祉器具に加え、介護用具のレンタルノウハウや施設運営などのソフトサービスまで、幅広い分野で日本の「介護」をアピールしていた。

 コロナ禍以降、中国の政治、経済、社会環境は大きく変化し、現在の日中関係は良好とは言い難い状況にある。近年、「チャイナリスク」を懸念し、中国に進出していたさまざまな分野の日本企業が撤退や事業縮小の動きを見せている。約2年前からは日本の大手介護事業者も相次いで中国市場から撤退している。

 このような逆風の中で、なぜ今年も多くの日系企業が参加したのだろうか。筆者が会場で話を聞いた日本の関係者たちは、一様に「この中国という巨大市場を看過できない。ビジネスチャンスはある」と口にしていた。

● 急速に進む高齢化、他業種から高齢者事業に参入する企業も

 中国の37年間にわたる「一人っ子政策」は、少子高齢化を加速させた。今年1月の政府統計によると、昨年末時点で65歳以上の高齢者率は15.4%で、2億1600万人を超えている。さらに、1962~63年のベビーブーム世代が今後膨大な高齢者予備軍となり、2035年には高齢者人口が3億3000万人に達すると予測されている。

 国家情報センターによると、高齢者ビジネスの市場規模は現在約140兆円で、2035年には約600兆円になると試算されている。政府も高齢者ビジネスを後押しする政策を次々と打ち出しており、今年1月には国務院が「銀髪経済(シルバー経済)の発展に関する意見」を発表した。この政府方針は、国の政策に左右されやすい介護業界にとって朗報といえるだろう。

 コロナ禍の終息後、中国経済の成長が鈍化している中で、業績がふるわない企業が増えている。そんな中で生き残るために、成長の見込みがある高齢者事業にモデルチェンジする企業が急増しているのだ。筆者が訪れた冒頭の展示会が極めて盛況だったのも、こうした事情が背景にあると考えられる。

● 日本に勝機はあるか?中国で介護施設の入居率が低い理由

 しかし、この盛況ぶりとは裏腹に、厳しい数字がある。2022年12月に北京師範大学などの研究機関が共同調査を行い発表したレポートによると、中国の介護施設のベッド数は488万あるのに対して、平均入居率は5割に満たず、45.5%という低水準にとどまっている。

 その理由は、中国には日本のような介護関連の社会保障制度が完備されていないため、ほとんどの介護サービスが日本でいうところの「保険外のサービス」になってしまうことだ。このため、介護施設を利用する場合、それなりにまとまった金額が必要となる。介護施設を運営する事業者側にとっても、日本の介護保険収入のように安定的な収益は期待できないという面がある。加えて、中国の経営者たちは「コロナ禍の3年間の打撃が大きかった」と口を揃える。そのしこりが今も残り、「事業を継続するのに本当に大変だ」という声が聞かれた。

 このような厳しい環境下でも、中国市場でビジネスを展開したいと考えている日本企業はいる。しかし、社会保険制度の問題に加え、生活習慣や文化、考え方の違いなど、さまざまな障壁があるのが実情だ。正直なところ、日本の介護事業者にとって、中国市場の開拓は容易ではない。果たして、日本企業に中国市場での勝機はあるのだろうか。