「悪魔との取引も必要」 ドイツ、囚人交換でロシア人殺人犯釈放

AI要約

ドイツは、ロシアと西側諸国の間で最大の囚人交換を行い、殺人罪で服役中だったロシアの工作員を釈放。交換には米国人記者やロシア反体制派も含まれた。

しかし、ドイツは特に高い代償を支払い、ベルリンで白昼堂々殺人を犯した男を釈放。ロシア人工作員は2019年に元指揮官を暗殺。

ドイツ当局は囚人交換によって市民の自由と福祉が守られたと主張。一部からは政治介入の懸念も出ている。

「悪魔との取引も必要」 ドイツ、囚人交換でロシア人殺人犯釈放

【AFP=時事】ドイツは、ロシアと西側諸国の間での東西冷戦(Cold War)終結以来最大となった囚人交換を円滑に進めるため、殺人罪で服役中だったロシアの工作員を釈放し、国内で物議を醸している。

 囚人交換では、米国人記者のエバン・ゲルシコビッチ(Evan Gershkovich)氏や著名なロシア反体制派、ドイツ人5人が釈放された。いずれもロシアやベラルーシで拘束されていた。

 だが、見返りにロシア人の囚人を釈放した国々の中でも、ドイツは特に高い代償を支払い、首都ベルリン中心部で白昼堂々殺人を犯した男を釈放した。

 ロシア国籍のワジム・クラシコフ(Vadim Krasikov)氏は2019年、ロシア南部チェチェン(Chechen)共和国の独立派武装勢力の元指揮官をベルリンで暗殺。2021年12月に終身刑判決を言い渡され、ドイツで服役していた。

 ジョー・バイデン(Joe Biden)米大統領は、囚人交換を祝う記者会見で、「特に」オラフ・ショルツ(Olaf Scholz)独首相には「大きな感謝の念を抱いている」と述べて称賛した。

 しかし、ショルツ氏はその後、クラシコフ氏の釈放は「難しい」決断だったと認めた。

 ニュース専門局NTVによれば、この件をめぐり首相府と司法省は対立。国内メディアによると、司法省は最終的に、クラシコフ氏の国外退去を可能にするため、刑の執行を停止するよう検察に命じた。

 法曹界の一部からは、司法への不適切な政治介入を指摘する声が上がっているとみられている。

 また、「免責を拡大」させ、ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領をつけ上がらせるのではないかとの懸念の声も上がっている。プーチン氏はクラシコフ氏について、「悪党を抹殺」して「愛国心」を示したと述べていた。

 大衆紙ビルトは社説で、ロシアで拘束されていた人権活動家とドイツ国民の釈放は歓迎すべきだが、プーチン氏について、「殺人犯らを救った英雄」との誤ったメッセージがロシア国民に送られることになると指摘した。

 だが、ドイツ当局は、この取引によって囚人の自由と福祉が守られたとして、ドイツにはこうした市民に配慮する義務があると主張している。

 ショルツ氏と同じ社会民主党(SPD)に所属する連邦議会外務委員会のミハエル・ロート(Michael Roth)委員長は、X(旧ツイッター)で囚人交換を総括。「時には、人道上の理由から悪魔と取引しなければならないこともある」と述べた。

 ロシア大統領府(クレムリン、Kremlin)のドミトリー・ペスコフ(Dmitry Peskov)報道官は2日、クラシコフ氏がロシア連邦保安局(FSB)の特殊部隊「アルファ部隊」に所属する工作員だと認めた。【翻訳編集】 AFPBB News