空気をきれいにする壁画や液体街路樹、大気汚染の最新対策はこれだ 東欧では社会実装

AI要約

欧米や日本など先進国で大気汚染が克服されたと考えられるが、世界人口の99%が不健康な空気中に住んでいる現実。欧州では空気清浄化を促す取り組みが進行中。

ルーマニアの港町コンスタンツァに位置する世界最大の空気をきれいにする壁画。特殊な塗料を使い、大気汚染物質を最大90%除去する効果がある。

アーティストのメッセージを反映した壁画で、環境意識を高める取り組みが社会的に注目されている。

空気をきれいにする壁画や液体街路樹、大気汚染の最新対策はこれだ 東欧では社会実装

欧米や日本など先進国で、大気汚染は既に克服した「過去の問題」と捉えられがちだ。だが、2019年には世界人口の99%が、世界保健機関(WHO)の定めるPM2.5の目標値(年間平均1立方メートルあたり5マイクログラム以下)を超える「不健康」な空気の中に住んでいた。欧州では、人々の意識を高める「仕掛け」が動き出している。(荒ちひろ)

ルーマニアの首都ブカレストから鉄道で東へ2時間あまり。黒海沿いの港町コンスタンツァのビーチを4月下旬、訪ねた。

目指したのは巨大な壁画。高台との高低差約10メートル、幅200メートルほどのコンクリートのキャンバスは、黄色やオレンジ、水色など柔らかな色合いで彩られ、中央には双眼鏡をのぞく人物の顔が高さいっぱいに描かれている。観光客なのだろうか、リゾート風の装いにも見える。視線の先、レンズに映る黒海には、プラスチックのゴミや瓶が浮かんでいて――。

ルーマニアの環境NGO「Act for Tomorrow」(AfT)が2021年9月に制作した、世界最大の「空気をきれいにする壁画」だ。

光触媒の技術で空気をきれいにするという特殊な塗料「エアライト」で描かれた。欧州連合(EU)の研究・イノベーションへの資金助成プログラムのもと開発されたイタリア企業の製品で、窒素酸化物(NOx)を化学反応で無害化したり、硫黄酸化物(SOx)を吸収したり、ベンゼンやトルエンなどの揮発性有機化合物を分解するなど、「大気汚染物質を最大90%除去する効果がある」とうたう。

コンスタンツァの約2000平方メートルの壁画では、年間112キログラムの窒素酸化物を無害化するなど、樹木88本分に相当する空気浄化の効果が期待できるとされる。

AfTが2019年、ルーマニア北部バカウで地元のアート系NGOと国内で初めて手がけ、2021年に「世界最大」を完成させた。

作者でコンスタンツァ出身のアーティスト、アレックス・バーチューさん(38)は「表面的には見えにくい環境問題についても、一歩踏み出して考えてほしい。そんなメッセージを込めた」。メディアやSNSでも大きく取り上げられたという。