韓国で2000人を超える「幽霊赤ちゃん」が突きつけた内密出産の必要性

AI要約

韓国で施行された内密出産特別法には、消えた赤ちゃん問題が背景にある。

内密出産は、母親の身元を明かさずに赤ちゃんを産む支援の仕組みで、慈恵病院などで導入されている。

目的は危険な孤立出産を防ぐことで、2年間で計21人が内密出産したと報告されている。

韓国で2000人を超える「幽霊赤ちゃん」が突きつけた内密出産の必要性

2024年7月、身元を明かさずとも女性が医療機関で出産できる「内密出産」を認める特別法が、韓国で施行された。背景には、2015~22年の間に2000人を超える新生児の行方がわからなくなった問題があるという。

親が育てられない状況のなかで、子供を授かったらどうするか。生まれてきた子供の命にかかわる重大な問題だが、対応策の一つに「内密出産」がある。

女性が身元を明かさなくても医療機関で出産できる仕組みで、ドイツで2014年から制度化されているほか、日本では熊本市の慈恵病院が導入している。韓国でも、内密出産を認める特別法が7月から施行された。

韓国で内密出産が可能になった背景には、病院で生まれた記録があるのに出生届が出されず、所在がわからない「消えた赤ちゃん」の問題がある。

慈恵病院では、匿名での出産を希望する妊婦から相談があった場合、妊婦の意向を慎重に確認したうえで、何年後なら身元を明かしてよいかなどを取り決める。妊婦は病院の限られた人にのみ身元を明かす。出生届は母親の名前が記載できないので提出不可。そのため、戸籍は首長の職権で作成される。

子供が一定の年齢に達して親の名前を知りたい場合は、病院側が身分証明書などを開示し、出自を知る権利を保障している。

こうした仕組みを聞いて、母親が育てられない赤ちゃんを保護する「赤ちゃんポスト」を想起する人も少なくないだろう。赤ちゃんポストは、親が育てられない乳幼児を匿名で受け入れる仕組みで、慈恵病院でも「こうのとりのゆりかご」として実施してきた。

内密出産は、赤ちゃんが生まれる前の段階から、妊婦が身元を明かさずに受けられる支援であり、その点が赤ちゃんポストとの違いだ。

内密出産を導入する目的は、妊娠を知られたくない女性が危険な孤立出産を選ぶのを防ぐことにある。予期せぬ妊娠をした女性が周りに相談できず、医師や助産師の立ち合いがないまま孤立出産を迎えてしまうと、母子の体に危険が伴うほか、悩んだ女性が赤ちゃんを殺害・遺棄してしまう事件も後を絶たない。

そうした痛ましい事態を少しでも減らし、赤ちゃんの命を守るために、内密出産の仕組みがある。慈恵病院では2021年12月に初めての事例があり、2年間で計21人が内密出産したと公表している。

韓国では、内密出産のことを「保護出産」と呼ぶ。

韓国にも赤ちゃんポストの仕組みがあり、キリスト教団体が運営しているが、託される子供の数が増え続けて社会問題化し、内密出産の議論がなされるようになった。国会で議員が法案を提出するといった動きもあったが、シングルマザーの支援を優先すべきとの世論もあり、法制化には至っていなかった。

その状況を一変させたのが、「消えた赤ちゃん」の問題だった。