「弾劾」連発で政敵を追い詰める韓国政治の不幸 澤田克己

AI要約

韓国の政治ニュースで最近、「弾劾」という言葉がよく使われている。進歩派野党・共に民主党が様々な公職者に対して弾劾訴追を行っており、大統領をも含めた弾劾の重みが薄れている状況だ。

民主党は検事4人を弾劾訴追する方針を決定し、その背後には次期大統領選での争いが影響している可能性がある。一部のメディアや新聞も弾劾の真意に疑問を投げかけている。

韓国では大統領や検事など公職者も弾劾の対象になり、その手続きは厳格に定められている。民主党が過去に主導した弾劾訴追も結果的に罷免につながるケースはなく、憲法裁の審理を経ることが多い。

「弾劾」連発で政敵を追い詰める韓国政治の不幸 澤田克己

 韓国の政治ニュースで最近、「弾劾」という言葉をよく見かける。だが大統領をはじめとする公職者のポストを強制的に剥奪する重大な法律行為であるはずなのに、そうした重みは感じられない。国会で約6割の議席を持つ進歩派野党・共に民主党は閣僚や検事に対する弾劾訴追を連発し、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領に対する弾劾も国会で議論の俎上に乗せようとしているのである。

◇共に民主党が検事4人を弾劾訴追へ

 民主党は7月初め、検事4人を新たに弾劾訴追する方針を決めた。韓国メディアによると、このうち3人は民主党の李在明(イ・ジェミョン)前代表に関係する疑惑を捜査していた検事たちだ。2027年の次期大統領選での雪辱を期す李氏は多くの事件で起訴されており、元側近が1審で有罪判決を受けるなどの逆風を受けている。

 保守系紙「朝鮮日報」は社説で、李氏の大統領選出馬を妨害するなら誰でも弾劾するという「政略的」なものだと断じた。普段は民主党寄りのスタンスが目立つ進歩系の新聞も「報復としての弾劾推進ではないかと疑われる余地がある」(ハンギョレ新聞)、「李氏を守るための検事弾劾だと疑われるなら『立法権乱用』との批判を免れるのは難しい」(京郷新聞)と社説で苦言を呈した。

 韓国では大統領や首相、閣僚などだけでなく、検事も弾劾の対象となる。いずれも国会在籍議員の3分の1以上による発議で弾劾訴追案が審議に付され、在籍議員の過半数(大統領だけは3分の2以上)が賛成すれば憲法裁判所への訴追が決まる。憲法裁は一審制で、ここで罷免が決まれば失職だ。

 文在寅(ムン・ジェイン)政権だった20年から国会の過半数を握ってきた民主党は、文政権だった21年に判事1人、尹政権になって以降の23年に閣僚1人と検事3人の弾劾訴追を主導した。このうち3人は憲法裁の審理が終わったが、いずれも却下や棄却で実際に罷免されたケースはない。ただ尹政権下では、訴追にまで至らなくても弾劾をちらつかせて圧迫し、政治任用の政府機関トップを辞任に追い込むケースが目立っている。