米国「政治暴力」に再び震撼 憎悪の連鎖 トランプ氏「英雄」イメージを選挙利用も

AI要約

米国が再び政治的暴力に震撼し、トランプ前大統領の銃撃事件が深刻な国内分断を露わにした。

米政治の対立は深刻さを増し、部族主義の域に達し、憎み合う勢力が対立する状態を指摘されている。

トランプ氏は事件で暗殺の危機を切り抜けた「英雄」のイメージを手にする。共和党はトランプ部族の結束を強化する全国大会を開催する予定。

米国「政治暴力」に再び震撼 憎悪の連鎖 トランプ氏「英雄」イメージを選挙利用も

米国が再び「政治的暴力」に震撼した。東部ペンシルベニア州で13日に起きた共和党のトランプ前大統領の銃撃事件は、深刻な国内の分断を改めて露わにした。一方、トランプ氏は暴力の標的とされた事実を、11月の大統領選に向けて求心力を高める材料に用いる可能性が高い。

銃声が立て続けに響き、ステージ上のトランプ氏は耳を押さえながらうずくまった。警護要員が覆いかぶさり、会場に悲鳴が響き渡る。

英BBC放送が伝えた目撃者証言によると、犯人は付近の建物の屋根によじ登り、ライフル銃で狙撃。耳から流血したトランプ氏は警護に支えられながら立ち上がり、拳を大きく突き上げた。

映像によると、支持者らは歓喜とともに激しい怒声を上げた。トランプ氏を失わなかったことへの安堵だけでなく、トランプ氏を狙った「敵」への憎悪が交錯した。

近年の米政治の対立は深刻さを増すばかりだ。民主党が志向する「大きな政府」か、従来の共和党が目指した「小さな政府」かという政策や理念にとどまらず、「トライバリズム(部族主義)」と形容される域に達したと指摘される。部族社会のように憎み合う勢力が対立する状態を指す。

2020年の前回大統領選では、落選したトランプ氏が繰り返す「不正」主張を信じた支持者が、選挙結果を覆すために連邦議会を襲撃。関連死を含め、少なくとも5人が死亡した。

共和党支持層の大多数は今も「不正」を信じ、それを否定する民主党支持層に敵意を募らせる。バイデン大統領ら民主党側は、トランプ氏周辺や支持者にも「民主主義の脅威」とレッテルをはってきた。犯行の詳細な動機などは分かっていないが、トランプ氏銃撃事件は、そうした憎悪の連鎖の中で発生した。

トランプ氏は事件で暗殺の危機を切り抜けた「英雄」のイメージを手にした形だ。米ライス大で大統領史を研究するダグラス・ブリンクリー氏は米紙に、トランプ氏が「勇気と不屈の米国的精神」の「新たな象徴」となる可能性を指摘した。

共和党は15日からはトランプ氏を大統領候補に正式指名する全国大会を開く。大会は事件を逆手にとって「トランプ部族」としての結束を強化・確認する場になるとみられる。

事件は米政治の〝可燃性〟の高さも示した。民主的プロセスを通じ、政治的暴力の連鎖を回避できるのか。突きつけられた命題は重い。(ワシントン 大内清、渡辺浩生)