「放火魔消防士」との声も...解散ギャンブルに踏み切ったマクロンの真意とは?

AI要約

フランス政界では6月9日の日曜に2度の激震がありました。まずは極右政党の国民連合が圧勝し、その後に大統領マクロンが解散総選挙を宣言したことで野党に衝撃が走りました。

国民連合の支持率が過去最高に上昇し、マクロン政権にとって予想外の展開となりました。左派は再結集し、右派は混乱に陥る中、政治情勢が一変しました。

マクロンは大胆な行動を起こし、極右勢力の影響力を打破することを試みています。政治的な地殻変動が起こり、フランス政界は大きな変革期を迎えています。

「放火魔消防士」との声も...解散ギャンブルに踏み切ったマクロンの真意とは?

6月9日の日曜、フランス政界に激震が走った。それも2度。瓦礫の山から首を出した政治家たちが目にしたのは、まるで天地がひっくり返ったかのような世界。いったい何が起きたのか?

最初の揺れは、国内で欧州議会選挙の投票が締め切られた直後に起きた。マリーヌ・ルペンの極右政党「国民連合(旧国民戦線)」の圧勝が確実になったのだ。

ただし、これには予感があった。事前の世論調査でも、若武者ジョルダン・バルデラを党首に担いだ国民連合の支持率が30%以上で、バレリー・アイエを代表とする与党「再生」の2倍以上だった。

票の集計が進むにつれて衝撃は深まった。国民連合は過去の欧州議会選でも主要政党に勝っていたが、今回はその差が17ポイントにも近づいた。

しかもブルターニュやイル・ド・フランス地域圏(首都パリを除く)のような中道派の牙城を含む全ての地域を制した。支持層も、かつて手の届かなかった高齢者や大卒・専門職の人にまで広がっていた。

その後にもっと大きな余震が来た。選挙結果が判明して1時間としないうちに、エマニュエル・マクロン大統領が国民議会(下院)の解散総選挙を宣言した。マクロン政権に対抗する野党勢力も与党の有力政治家たちも、これには天を仰ぐしかなかった。

「ここまで国民連合が強くては解散総選挙など不可能だ」。ある現職閣僚は数週間前に、そう語っていた。マクロン自身も5月までは、欧州議会選はEUの問題であって、フランスの政治にまで影響が及ぶものではないと述べていた。つまり、本人も解散宣言などは想定していなかった。

賭けに出たな、と政界関係者や評論家たちは言う。マクロンは解散宣言の直前に、ごく少数の同志と相談していたが、首相のガブリエル・アタルを含め、みんな大統領に再考を求めたと伝えられる。

火消しをしたくて火を付ける「放火魔消防士」に等しいと切り捨てた人もいる。だがレッテル貼りはむなしい。必要なのは「なぜ?」の解明だ。いくつかの説明があり得る。

まずは「大胆さ」。18世紀末のフランス革命で雄弁家として名をはせたジョルジュ・ダントンは言ったものだ。「大胆に、より大胆に、常に大胆に。それでこそフランスは救われる」と。

マクロンも、大胆さでは誰にも負けない。実際、衝撃の解散総選挙宣言で野党勢力は度肝を抜かれた。

だが、あいにく1党だけ例外があった。当初から(少なくとも口先では)解散総選挙を求めていた国民連合だ。

その一方、マクロンの解散宣言で左派勢力に大同団結の機運が生まれたのも事実。左派は2022年の国民議会選挙に共闘組織「新人民環境社会連合」を結成して臨んだが、うまくいかなかった。

連合結成を呼びかけたのは極左政党「不服従のフランス(LFI)」を率いるジャンリュック・メランションだったが、どうにも彼の個性が強すぎて社会党や緑の党などの反発を招き、連合は内部崩壊した。

しかし今回、マクロンの大胆さに刺激を受けた左派の諸勢力は大胆に動いた。翌日の夜には、もう互いの間で意見の相違を調整し始めた。音頭を取ったのは、カリスマ政治家ラファエル・グリュックスマンを担いで欧州議会選で躍進した社会党だ。

その昔、1935年に極右勢力によるクーデター未遂を受けて左派が大同団結して結成した「フランス人民戦線」にちなんで、LFIと社会党、共産党、緑の党(現在はエコロジー党と呼ばれる)の指導者たちは「この国の人道主義者と労働組合、市民運動を代表する新人民戦線」の創設を発表した。

そして各選挙区で右派・極右に対抗する候補者を1人だけ擁立して共闘することに合意した。共同宣言によると、目的は「マクロンに代わる選択肢を設け、極右の人種差別主義者と闘うこと」にある。

一方、既存の右派政党は揺れている。これはマクロンの読みどおりかもしれない。11日の朝、共和党のエリック・シオティ党首は極右・国民連合の要請に応じて共闘する考えを表明した。すると保守本流の自覚と自負に燃える党内の有力者たちが激怒した。

そもそも、国民連合の政策要綱は共和党の掲げる伝統的な共和主義と相いれない。シオティ自身も、今年初めには「深いイデオロギー的相違」ゆえに国民連合との共闘はあり得ないと語っていた。

翌12日には党内有力者が集まり、党首の更迭を決議した(シオティ自身は党本部に閉じ籠もって辞任を拒んでいる)。この混乱に乗じて、ルペンの国民連合も与党の再生も共和党員に、自派へのくら替えを呼びかけている。

次に考えられるのは、マクロン自身が17年の大統領選で掲げた「私を選ぶか、混乱を選ぶか」という二者択一の思考法だ。マクロンは一貫して、ルペンと国民連合は混乱を体現するものだと説いてきた。ただし、これに脅威を感じたルペンは国民連合の路線を微妙に修正している。