「これまでの努力は…」胸に響いた池江璃花子選手の声 迫田さおりさんが振り返るパリ五輪

AI要約

バレーボール男子日本代表がイタリアに敗れ、52年ぶりのメダル獲得には届かなかった。第3セットでの逆転劇や選手たちの奮闘ぶりに感動した。

日本代表のプレーには「つなぎ」の軸やトスワーク、主将の石川選手の活躍が光った。メダルこそ得られなかったが、多くの人々を魅了した。

コロナ禍で延期されたパリ五輪に臨んだ選手たちの努力と感情に共感し、オリンピアンの今後にエールを送る。

「これまでの努力は…」胸に響いた池江璃花子選手の声 迫田さおりさんが振り返るパリ五輪

 好きな言葉は「心(こころ)」だという。バレーボール女子元日本代表のアタッカー、迫田さおりさんは華麗なバックアタックを武器に2012年ロンドン五輪で銅メダル獲得に貢献した。現役引退後は解説者などで活躍の場を広げながら、スポーツの魅力を発信しようと自身の想(おも)いをつづっている。

 祭りの後の寂しさを味わっています。パリ五輪の約2週間、さまざまな競技を見て、いろんな心情が湧き出てきました。強く感じたのは、スポーツには人の心を動かす「力」があるということです。バレーボール男子日本代表が涙をのんだ準々決勝が印象的でした。

 イタリアにセットカウント2―3で惜敗し、52年ぶりのメダルには届きませんでした。2セットを先取して迎えた第3セット。24―21でマッチポイントを握りながら、逆転を許しました。決して隙を見せたわけではないはずです。「最後の1点」を取り切る難しさ、奥深さに感じ入りました。

 「男子バレーは楽しいよね」とよく耳にします。以前のような「一発でドーン!」ではなく「拾って、つないで、決め切る」ところにわくわくさせられます。「えっ、そこにいたの!」。リベロの山本智大選手には何度も驚かされました。海外勢も一目置く神懸かったレシーブが日本の「つなぎ」の軸となりました。

 多彩なトスワークには私も惑わされました。セッターの関田誠大選手です。勝利した1次リーグのアルゼンチン戦では、これでもかとミドルブロッカーを使い、トスを託された選手も決め切っていました。厚い信頼関係があればこそです。

 メダル獲得への覚悟を最後まで示し続けました。主将でエースの石川祐希選手です。厳しいマークを受けながら、それでも最後のイタリア戦は32得点。「これぞ石川選手」という活躍でした。東京五輪を終えてから、多くのことを犠牲にしながら闘ってきたことを「神様」は見てくれていたんですね。

 求めたメダルは手にできなくても、あれだけの人たちが彼らの一挙手一投足にくぎ付けになりました。何よりこれだけの魅力的なメンバーが「2024年夏」に集まったことに感動しました。チームが一体となってつくりあげてきたことに心からの拍手を送ります。

 五輪は4年に1度です。今回のパリ大会は、コロナ禍で1年延期された東京大会から3年後に開催されました。誰もが長い時間を一つの競技に懸けてきました。「今回駄目でも、また次に頑張れば…」と、簡単に言うことはできません。

 「これまでの努力は何だったんだろう」―。競泳女子の池江璃花子選手の談話が胸に響きます。大病から復帰して臨んだパリ五輪では、個人種目の決勝に進めませんでした。多くのメダリストたちが「やってきたことは間違いではなかった」と口にします。私はむしろ、この大舞台に立つまでに費やしたものの重さに思いをはせたい。感涙であったり、悔し涙であったり…全力を尽くしたオリンピアンからあふれ出た感情を、理解できる存在でありたい。

 炎天の夏が暮れてゆきます。たとえ今は「結果」を受け止められなくても、いつか「あの日があって良かったよね」と、語り合える時が訪れてほしい。スポーツの祭典に全てをささげた歳月と想(おも)いは、オリンピアンの今後の人生にとってかけがえのない財産になると信じています。(バレーボール女子元日本代表、スポーツビズ所属)