「マサヒロ来ないね…」男子バレー“絶体絶命の夜”に一体何が? 黒星スタートの今こそ生かされる経験「あの負けが僕らをひとつにした」4人の証言

AI要約

日本代表バレーボール男子がパリ五輪予選リーグ初戦で敗北を喫し、過去の悪夢を思い起こさせる展開となった。

関田誠大の落胆や親友の励ましを通じて、チームの結束とポジティブな考え方が強調された。

過ちを乗り越える力強さや次に繋げるポジティブな姿勢が、チームが大逆転を果たす契機となった。

「マサヒロ来ないね…」男子バレー“絶体絶命の夜”に一体何が? 黒星スタートの今こそ生かされる経験「あの負けが僕らをひとつにした」4人の証言

 パリ五輪・予選リーグ初戦で難敵ドイツに敗れたバレーボール男子日本代表。よもやの黒星スタートに、“あの日の悪夢”を想起した人もいたのではないだろうか。チームの結びつきをより強固にした昨年の五輪予選第2戦エジプト戦の夜――のちの大逆転劇の契機になった時間を、4名の証言で振り返る。

「マサヒロ来ないね……」

 空いたままの席を見つめながら、山内晶大がポツリとつぶやいた。

 食事会場で同じテーブルに座る石川祐希、高橋健太郎、小野寺太志、西田有志ももちろん気づいていた。いつもはそこにいる関田誠大が来ていないことに。

 昨年行われたパリ五輪予選第2戦、エジプト戦後の夜のことである。

 昨年、日本代表はネーションズリーグで、主要な世界大会では46年ぶりとなるメダルを獲得し、世界ランキングも5位(五輪予選開幕時点)に浮上。期待と注目度が一気に高まっていた。

 8カ国中2カ国のみに出場権が与えられる五輪予選では、後半戦にセルビア、スロベニア、アメリカという強豪との3連戦が控えており、前半戦は力の差があると思われた相手に4連勝して勢いをつける算段だった。ところが第2戦のエジプト戦で、1、2セットを奪ってから、3セットを連取され、痛恨の逆転負け。大会序盤にして窮地に立たされた。

 セッターの関田は敗戦の責任を背負いこんだ。のちにこう振り返った。

「弱気になっていた部分もあると思う。僕自身、結果にこだわりすぎると自分のよさがなくなって単調になることがある。積極性がなかなか出せなかった。完全に相手に流れが行き、いつもなら決まる点が決まらなくて『あれ? 』と、そういうちょっとずつの積み重ねで、ああいうふうになったと思う。あの時は、本当に申し訳ない気持ちでした」

 試合後は目を赤くしてミックスゾーンに現れ、取材に応じることなく足早に通り過ぎた。

 山内はその後の関田の様子をこう語っていた。

「すごい落ち込み方でした。今大会はいろんな人が期待してくれている中で勝たなければというプレッシャーがある。彼はたぶんある程度自分に自信があって、自分に期待していただけに、すごくショックで悔しい思いがあったと思います。試合後は、周りを遮断するような感じでした」

 ホテルに戻ると関田は部屋にこもり、食事会場に現れなかった。

 だが周りは関田を一人にしなかった。

 どうしたらいいだろうと、悶々と考えながら部屋に戻った高橋健太郎は、テレビをつけた瞬間、目を見開いた。昨年3月にがんのためこの世を去った東京五輪代表セッター藤井直伸さんの特集が放送されていたのだ。慌てて関田に電話した。

「おい! テレビ観ろ! テレビ観ろ!」

 その特集を観終わったあと、高橋は「コンビニでも行くか!」と関田を誘った。

 並んで外を歩きながら、懸命に関田に話しかけた。

「セキさん、さっきの観て、どう思った?」

「さあ……すごいね……」

「こんなタイミングで、すごいよね。やっぱ見てるよ、あの人は。藤井さんは見てるよ!」

 その後は一緒に関田の部屋に行き、高橋は話し続けた。

「ポジティブなことしか言ってなかったですね。とにかく『過ぎ去るから、今日は! 』ってこと。今日は人生で一番最悪な日だと思っても、半年後にはもう『ああ、そういうこともあったな』って結局塗り替えられていく。僕は結構そういう経験が多いので、『俺も、過ぎ去ってしまえばこうだったよ』と体験談を話しました。自分のせいだと思ってるかもしれないけど、全然そんなことないし、そういう悩みというのは、大きなことだと思っていても、俯瞰して見たらちっぽけに見えたりするよって。

 自分のやりたいことをやれているこの職業の中で、悩みやストレスを抱えられるって幸せだと思う。将来セカンドキャリアに進んだ時には、どうやっても自分の力では太刀打ちできない悔しい出来事に出くわす時は来ると思う。でも俺たちは今こうやって、自分の体を使って表現できる。『わーもうダメだ』と思っても、次の日に体育館に行って、自分を変えられるチャンスがいくらでもある。そんな話をずっとしていました。僕しゃべり出すと長いんで(笑)」