まさに異例のスピードで、F1デビューに近づくアントネッリ。メルセデスはいかにして、17歳の若き才能をメディアの注目から守っているのか?

AI要約

メルセデスは、育成ドライバーのアンドレア・キミ・アントネッリをF1デビューさせる計画を進めており、FIA F2に参戦させる段階として、アントネッリをしっかりサポートしている。

ハミルトンの後任として期待されるアントネッリだが、メルセデスは適切なタイミングでメディア露出を増やしていく戦略を取っており、将来のF1参戦に向けて準備を進めている。

アントネッリは若干17歳でありながら、F2での成績を上げつつあり、メルセデスも彼の成長を期待しているが、プレッシャーが今後ますます増すことを認識している。

まさに異例のスピードで、F1デビューに近づくアントネッリ。メルセデスはいかにして、17歳の若き才能をメディアの注目から守っているのか?

 メルセデスは、育成ドライバーのアンドレア・キミ・アントネッリをF1デビューさせる計画を進めており、今季はその前の最終段階として、FIA F2に参戦させている。

 期待の大型新人として大きな注目を集めるアントネッリだが、メディアからの関心が高まる中、まだ17歳ということもあり、メルセデスがしっかりとドライバーを守るための策を講じているようだ。

 アントネッリは、2022年にイタリアとドイツのFIA F4でチャンピオンに輝き、2023年にはヨーロッパと中東のフォーミュラ・リージョナルを制覇……今季はFIA F3ではなく、ひとつ上のFIA F2にプレマから参戦することとなった。アントネッリは2019年からメルセデスのジュニアプログラムに参加しており、メルセデスF1のチーム代表であるトト・ウルフとも親密な関係を築いている。そのため、近い将来メルセデスのF1マシンに乗るのは間違いないとされてきた。

 しかもメルセデスで黄金期を築いてきたルイス・ハミルトンが、今季限りで同チームを離れ、2025年からフェラーリに加わることを決めた。メルセデスのF1シートに空きができたことにより、アントネッリをめぐる期待は大きく高まった。

 加えて、それ以前からメルセデスはアントネッリをメルセデスからF1デビューさせる可能性も準備していたということが明らかになったのも、その傾向に拍車をかけた。

 2023年に延長されたハミルトンとメルセデスの契約は、1+1の合計2年という内容だった。これはハミルトンがF1を引退する可能性があったため、そして育成ドライバーを昇格させなければならなくなった場合に備えて決められたものだったと、ウルフ代表は認めている。

 実際、ハミルトンが2月にフェラーリ移籍を決めた際、レッドブルの絶対的王者マックス・フェルスタッペンをはじめとするトップドライバーをメルセデスが獲得する可能性が残っている中でも、その後任として真っ先に名前が上がったのがアントネッリだった。

 それから数ヵ月間、状況は一進一退を繰り返した。アントネッリは大きな期待を背負って挑んだF2で、なかなか思うような結果を残すことができなかった。そのためウルフ代表は、ハミルトンに押し出される形でフェラーリを出ることになるカルロス・サインツJr.を獲得することを目論み始めていたようだ。

 その後アントネッリは、シルバーストンのスプリントレースでF2初優勝を決めた。そしてその後の会見で、勝利が「必要だった」ことを認めた。

 アントネッリがF2の公式会見に登場したのは、これが2回目。1回目はメルボルン戦の予選で2番手になった時だった。

 2回の会見の間に3ヵ月半もの間隔が開いたことは、アントネッリとプレマがかなり苦戦していたことを改めて浮き彫りにした。しかしその一方で、ふたつのことが明らかにもなった。

 ひとつ目は、シルバーストンで勝ったことにより、アントネッリがかなり自信を深めたように見えたことだ。もうひとつは、メルセデスがアントネッリをメディアから守り続けてきたということだ。

 メルセデスは、将来F1で活躍させるために、アントネッリをメディアの前に立たせるタイミングを厳しくマネジメントしてきた。彼らは、若いアントネッリがメディアに対応することになれば、過酷な状況になりかねないことを認識していたのだ。

 いずれかのF1チームのジュニアドライバーが、メディアのインタビューやF2のパドックでの会話に直接対応することは、よくあることだ。しかしアントネッリは、ジュニアカテゴリーの取材陣からも遠ざけられてきた。

 メルセデスは、舞台裏でもアントネッリと行動を共にし、社内でメディアトレーニングも行なっている。ウルフ代表が言うように、アントネッリのキャリアが期待通り進んでいけば、彼に対するプレッシャーは「さらに大きくなる」のは間違いないだろう。

 メルセデスはまた、アントネッリがF1に昇格すれば、すぐに大手のスポンサーイベントの出席したり、メルセデス・ベンツ・グループのオラ・カレニウスCEOやチームスポンサーであるINEOSのボスであるジム・ラトクリフなどの重要人物と直接やりとりしなければいけないということも痛感している。

 メルセデスのこの戦略の背後には、ふたつの考え方がある。

 ひとつはアントネッリをメディアの雑音から解放することで、今年ステップアップしたF2への適応し、厳しいシーズンに集中することができるということだ。もうひとつは、彼の母国であるイタリアの、残忍なメディアから守ることができるということだ。

 とはいえ今後メルセデスは、アントネッリのメディアへの露出を徐々に増やしていこうとしているようだ。そしてF2で成功することができれば、自動的に露出は増えることになろう。

 アントネッリがF1に昇格できるかどうかは、まだ未定だ。メルセデスが、アントネッリはまだハミルトンの後任としてメルセデスのワークスマシンをドライブできる準備が整っていないと感じたならば、彼をグリッドのさらに下位のチーム(ウイリアムズやアルピーヌ)に乗せるか、あるいはもう1年F2を走らせることもできる。

 しかしウルフ代表は、アントネッリのスピードだけでなく、より広範囲の能力に感銘を受けているようだ。

 2024年のアントネッリを取り巻く”熱狂”にどう対処してるのか? そうを尋ねると、ウルフ代表は次のように語った。

「彼と彼のすぐ近くにいる家族の姿勢で私が気に入っているのは、状況を客観的に評価し、それが『良いのか、それとも十分ではないのか』を判断できるということだ」

「そしてプレッシャーが、彼の車内でのパフォーマンスやドライビングに、悪影響を与えているとは思わない」

「オリバー・ベアマン(同じくプレマからF2参戦中で来季ハースからのF1参戦決定済み)との比較では、明らかに良い。彼らのパフォーマンスはとても近いんだ。オリーはオーストリアで、明らかに非常に良いレースをした。一方でキミは、日曜日の第2レースでクラッチリリースの問題を抱えていたんだ」

「だから、軽やかに動けるようにする必要がある。それは明らかだ。彼のキャリアは急成長を遂げてきた。まだ17歳なのだ。普通の運転免許さえ持っていないんだ」

「そして最も優秀な人材なら、厳しい監視とプレッシャーに耐えることができるだろう。そしてプレッシャーは、今後さらに大きくなっていくはずだ」