ホモ・サピエンスの「非常に高い生殖能力」が理由なのか…種々の人類の共存時代の後に、「サピエンスだけ」が唯一生き残った「謎」

AI要約

地球の歴史から46億年もかけて、ホモ・サピエンスの誕生までの長い進化について紹介。

気候変化がホモ属の進化に関連している可能性を検証し、ホモ・ハイデルベルゲンシスからホモ・ネアンデルターレンシスへの進化の過程を解説。

ヨーロッパのホモ属の版図拡大に影響を与えた要因についても触れられている。

ホモ・サピエンスの「非常に高い生殖能力」が理由なのか…種々の人類の共存時代の後に、「サピエンスだけ」が唯一生き残った「謎」

生命の誕生から約39億5000万年、そして、最初の人類が登場してから約700万年。約46億年と言われる長い地球の歴史から見れば“ごく最近”のことではありますが、それでも気の遠くなるほどの時間をかけて、私たち「ホモ・サピエンス」の誕生に至りました。

サピエンスに至るまでの道のりを、【70の道標(みちしるべ)】に注目して紡いだ、壮大な物語『サピエンス前史』から、とくに注目したい「読みどころ」をご紹介してきたシリーズ。今回は、ついに進化の旅の終着点「ホモ・サピエンスの登場」について解説します。

*本記事は、『サピエンス前史 脊椎動物から人類に至る5億年の物語』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。

ホモ・エレクトスの繁栄から始まる“慌ただしい”進化。“ルビコン超えの脳”だけが、この進化を促していたのだろうか?(「ルビコン超えの脳」については、こちらの記事を参照されたい。〈2種のホモ族に見られる、わずかな期間に遂げられた「驚愕の進化」〉)

基礎科学研究院(韓国)のアクセル・ティメルマンたちは、ホモ・エレクトス、ホモ・ハイデルベルゲンシス、ホモ・ネアンデルターレンシス、ホモ・サピエンスといった人類各種の化石産出地の分布と、過去200万年間にわたるアフリカ大陸とユーラシア大陸の気候データを統合した大規模なコンピューター解析を実施。これによって、ホモ属の進化の背景に、気候変化が関連していた可能性を導き出した。

ホモ・ハイデルベルゲンシスの衰退とホモ・ネアンデルタールの支配権獲得

まず、ホモ・エレクトス*である。“ルビコン超えの脳”をもつ最初の人類となったこの種は、100万年以上にわたって、さまざまな気候帯を歩き回っていた。ユーラシア大陸に限定しても、ホモ・エレクトスの化石分布は広範囲にわたる。こうしたデータから、ホモ・エレクトスは 環境の制約にとても“タフ”な「ゼネラリスト」だったとされる。

*ホモ・エレクトスの誕生と進化については、こちらの記事〈2種のホモ族に見られる、わずかな期間に遂げられた「驚愕の進化」〉を参照。

ホモ・エレクトスから進化したとされるホモ・ハイデルベルゲンシスは、祖先ほど環境に対する柔軟性を持ち合わせなかったらしい。

ヨーロッパで暮らしていたホモ・ハイデルベルゲンシスは、氷期・間氷期と繰り返す気候変化を受けながら、徐々に衰退していく。そして、この衰退期にホモ・ネアンデルターレンシスが進化した。そして、ヨーロッパのホモ属の“生息圏の支配権”は、ハイデルベルゲンシスからネア ンデルターレンシスへと少しずつ移り変わり、やがてヨーロッパにおいてハイデルベルゲンシスは絶滅することになった。

なお、この時期のヨーロッパにおけるホモ属の“版図の拡大”は、間氷期だけではなく氷期にも行われている。スペインの国立人類進化研究センターのヘスス・ロドリゲスたちが2021年に発表したモデル計算によると、その背景には、耐寒能力の向上と、毛皮の衣服の使用などがあったという。