「体から」心のトラウマを癒やす、ソマティックセラピーとは PTSDや不安に有望な効果

AI要約

メンタルヘルスにおいて、ソマティックセラピーが注目を集めている。体を通じた回復を促すこの治療法は、従来のトークセラピーとは異なるアプローチを提供している。

ソマティックセラピーでは、感情や体験が体に蓄積される過程を重視し、トラウマや否定的信念といった問題にアプローチする。体と心のつながりを探求することで、より効果的な治療が可能となっている。

近年、ソマティックセラピーの需要が増加しており、ソーシャルメディアを通じてその認知度が高まっている。トラウマやストレス関連の不調に対する治療ニーズが急増しており、この新しいアプローチが注目を集めている。

「体から」心のトラウマを癒やす、ソマティックセラピーとは PTSDや不安に有望な効果

 近年、より多くの人がメンタルヘルスについて助けを求めるようになっており、さまざまな治療法を模索している。状況が大きく進化するなかで、心と体をつないで回復を促す「ソマティックセラピー」が、従来のトークセラピー(心理療法)に行き詰まりや物足りなさを感じている人々の間で、有望な治療法として浮かび上がっている。

 米国ソルトレイクシティ在住のジェイ・ヒューズさんも、従来の治療法を8年間にわたって受けた末、そのような岐路に立たされた。「今に目を向け、自分の人生をよりコントロールできるようになりたいと思いました」

 新たな道を模索した結果、ソマティックセラピーに行き着いた。「自分の体を通じて、これからどう生きていくかについてのロードマップを描くことができました」とヒューズさんは話す。

 しかし、ソマティックセラピーとはいったい何で、どのような効果があるのだろう? ここでは、このメンタルヘルスへの革新的なアプローチについてや、体を心の幸福への入り口として使うことに対する関心の高まりについて、知っておくべきことを紹介する。

 ソマティックとは「身体の」という意味。認知機能に焦点を当てる従来のトークセラピーと異なり、ソマティックセラピーでは感情や体験を蓄える体の役割を重視する。

「自分自身について持っている否定的な信念は体と共鳴しています。そこで、否定的な信念が体のどの部位に共鳴しているのかを突き止め、それを手放すためのスペースをつくります」とトラウマ治療の訓練と認定を受けた心理療法士シェイ・デュボワ氏は説明する。

 ソマティックセラピーは20世紀初頭の心理学までさかのぼることができる。ウィルヘルム・ライヒのような先駆者たちが、体の緊張や筋肉の動きが心理状態とどう関係しているかを探った。ライヒの「体のよろい(筋肉のよろい)」という概念は、抑圧された感情は体に表れるので、この身体的な症状に対処することが心の癒やしにつながるというものだ。

「誰かの思考パターンや行動をただ変えようとすることは、確かに有益ですが、それらが蓄えられている場所に変化は起こりません」と心理療法士のスコット・ライオンズ氏は話す。氏はソマティックセラピーの訓練を提供するプラットフォーム「エンボディ・ラボ」の創設者でもある。

 ライオンズ氏は対処されていないトラウマを空から家に落ちてきた大きな石に例える。「その石に対する考え方を変えたり、石がある部屋を避けたりすることはできますが、石はまだそこにあります」と氏は話す。「一方、私たちは実際、その石を溶かして分解してしまいます」

 認知行動療法(CBT)ほど幅広く研究されているわけではないが、ソマティックセラピーは、特に心的外傷後ストレス障害(PTSD)や不安症状を持つ人に対して有望な結果が出ている。

 2015年(邦訳は2016年)に出版されたベッセル・ヴァン・デア・コーク氏の著書『身体はトラウマを記録する 脳・心・体のつながりと回復のための手法』(紀伊國屋書店)が、トラウマをどう考え、どう癒やすかについての気付きを人々にもたらした。

 それまでメンタルヘルスについては、体に対するトラウマの影響を過小評価したり、否定したりするような社会の意識があったが、この本は、そうした意識が間違っていると考える多くの人々に確証を与えた。

 ソマティックセラピーが最近さらに注目を集めているのは、ソーシャルメディアのおかげでもある。コンテンツクリエイターやセラピストがソマティックセラピーの認知度を高め、何百万もの人々に教えを授けているのだ。

 心理的なセラピーの人気はかつてないほど高まっており、米心理学会の調査によると、米国ではトラウマやストレス関連の不調の治療に対する需要が2020年から2021年にかけて58%増えた。

 トラウマとは深い苦痛を伴う体験のことで、個人が対処できる能力を圧倒し、心身に持続的な影響を残す。一度きりまたは一連の出来事、あるいは継続的なストレスが原因となる。

 しかし、トラウマはレイプや近親者からの性暴力などの重大な体験のみに関わるものではない。愛着に関する研究によれば、赤ん坊のころにどう扱われたかも、構われすぎ、構われなさすぎにかかわらず、未解決のトラウマにつながる可能性がある。

 トラウマが体に表れるという概念が長く誤解されてきたのは、その影響がすぐに現れるわけではないためだ。伝統的には精神の症状ばかりが注目され、トラウマが微妙な形で体に蓄積されることは見過ごされがちだった。

「人生の初期に起きて記憶がなくても、体が覚えていることもあります」とデュボア氏は話す。