北海道の大型カタツムリ「エゾマイマイ」は走って逃げる!? “驚きの習性”が明らかに

AI要約

エゾマイマイの研究チームが、カタツムリの驚くべき習性を明らかにした。

エゾマイマイは殻を振り回して敵を追い払い、天敵から逃げる際に走ることができることがわかった。

天敵に襲われたときの行動や活動時間の違いなど、同じ種のカタツムリでも個体差や環境要因による違いがあることが示唆された。

北海道の大型カタツムリ「エゾマイマイ」は走って逃げる!? “驚きの習性”が明らかに

 じめじめしたところが好きで、雨の日によく見かけるカタツムリ。ゆっくり進むイメージがある生き物の驚きの習性を、高校生を含む研究チームがユニークな実験と観察で明らかにしました。自由研究のヒントにもなりそうな研究成果を紹介します。小中学生向けのニュース月刊誌『ジュニアエラ2024年6月号』(朝日新聞出版)からお届けします。

■殻に閉じこもらず殻を振り回して敵を追い払う

「♪でんでんむしむし  かたつむり  おまえのあたまは  どこにある……」

 と歌われるカタツムリは、軽くつついたりするだけで殻に閉じこもってしまうおとなしい軟体動物だ。ところが、北海道に生息するエゾマイマイというカタツムリは、そんなとき殻に閉じこもるのではなく、殻をブルンブルンと振り回して身を守る。自然の中では、天敵であるオサムシ類から攻撃を受けたときなどに、こうした行動をとって敵を追い払う(※)。このことは当時、大学院生だった森井悠太さん(現在は弘前大学准教授)が発見し、2016年に発表して世界の人をびっくりさせた。

※ロシア極東地域に生息するエゾマイマイの近縁種も、殻を振り回して身を守ることがわかっている。

 森井さんはその後もエゾマイマイの研究を続け、常識破りの習性を新たに二つ明らかにして、23年の10月に発表した(当時は京都大学特定助教)。

(1)エゾマイマイは自分を食べる天敵に襲われたとき、カタツムリなりに 〝走って逃げる〟。

(2)カタツムリは夜行性の動物だが、エゾマイマイは昼間も夜と同じように活動する「周日行性」である。周日行性のカタツムリが見つかったのは世界で初めて。

 この二つの発見の詳しい内容と、発見をもたらした実験・観察の方法を解説していこう。

 

■エゾマイマイはつつかれると移動速度が速くなる

 (1)のエゾマイマイが〝走って逃げる〟ことは、森井さんと北海道札幌啓成高校科学部の生徒たちとの共同研究チームによって明らかになった。

 研究チームは装置を使って、エゾマイマイと、同じ北海道に生息する近縁種であるヒメマイマイの移動速度を調べた。まず、通常の状態での移動速度について、装置を立てたり寝かしたりして、垂直方向と水平方向の両方を調べたところ、エゾマイマイはヒメマイマイより移動速度が1・2~1・4倍ほど速いことがわかった。

 続いて、装置の下の窓から手を入れてカタツムリをつついた後、移動速度がどう変化するかを調べた。ヒメマイマイはつつくと殻に閉じこもってしまったので、移動距離はほぼ0。一方、エゾマイマイはつついた後、移動速度が1・2~1・3倍ほど速くなった。この結果について森井さんはこう解説してくれた。

「実験でエゾマイマイをつつくことは、天敵に襲われたときの刺激にあたりますから、エゾマイマイは、天敵に襲われるとふだんよりも速く逃げることがわかりました。カタツムリには私たち人間のような足はありませんが、この速度変化は人間が〝走って逃げる〟のに等しいと思います。エゾマイマイは殻を振り回すだけでなく、走って逃げるという、ほかのカタツムリでは知られていない行動をとるとわかりました」

■同じ先祖を持つのにどうして行動が違うのか?

 (2)のエゾマイマイが「周日行性」であることは、森井さんが北海道の森の中にテントを張り、5日間かけて調べた結果わかった。この調査では、エゾマイマイとヒメマイマイの自然の中での活動(移動距離)の違いを明らかにするという目的があった。

 そのときに使った装置は、カタツムリに糸をつけ、糸を巻いたボビン(筒状の糸巻き)を通した竹串を地面に挿すというもの。カタツムリが移動するとボビンから糸が繰り出されるので、糸の長さを測れば、カタツムリの移動距離がわかる。