脅威だったに違いない「現れては、消えていく陸地」…じつに、数千年にわたって「特異な現象」を繰り返してきた、地中海に浮かぶ黒い火山島

AI要約

新たな火山島の出現について、島を知り地球を知る研究材料としての重要性や興味深さが述べられている。

著者が西之島を含む多くの島の上陸調査の経験から、島々の噴火や成長過程での地質現象が詳しく解説され、特にネア・カメニ島の説明が行われている。

ネア・カメニ島の由来や特徴的な地質組成、島の歴史的な活動について細かく描写されている。

脅威だったに違いない「現れては、消えていく陸地」…じつに、数千年にわたって「特異な現象」を繰り返してきた、地中海に浮かぶ黒い火山島

新たな火山島の出現は、島を知り地球を知る研究材料の宝庫。できたての島でなくては見ることのできない事象や、そこから伝わってくる地球のダイナミズムがあります。そして、地球に生まれた島は、どのような生涯をたどるのか、新たな疑問や期待も感じさせられます。

今まさに活動中の西之島をはじめ、多くの島の上陸調査も行ってきた著者が、国内外の特徴的な島について噴火や成長の過程での地質現象を詳しく解説した書籍『島はどうしてできるのか』が、大きな注目を集めています。

ここでは、実際に現場を見てきた著者ならではの、体験や研究結果をご紹介していきましょう。今回は、ネオ・カメニ島に上陸し、噴火活動の場を見ていきます。

※この記事は、『島はどうしてできるのか』の内容を再構成・再編集してお届けします。

ネア・カメニへアクセスするには、ティラ島のカルデラ壁の下の港から船で20分程度、あっという間だ。しかし、港からしだいに離れるなか振り返ると、カルデラ壁の存在感に圧倒される。

この壁を境に別の世界が広がっているようだ。

そして前方にいよいよネア・カメニが近づいてくると、学生らとともに自然と興奮してくる。遠目からはのっぺりとした島に見えたが、近づいてみると赤黒い溶岩が重なり合い、起伏に富み、表層はブロック状に破砕した溶岩塊(クリンカー)で覆われている(「表層が溶岩塊で覆われているネア・カメニ」)。

いくつかの入り江があるが、島北側の湾部には簡易の桟橋が作られていて、上陸は意外と簡単だ。遊歩道も整備されているが、もしそうでなければこの島を歩き回るのは容易ではない。上陸してすぐ山頂方向左手にはこの島では最も古い部分、1570~1573年の噴火でできた火砕丘、ミクリ・カメニが構えている。

ミクリは英語でマイクロ、つまり小焼山だ。そして右手側には1925~1928年の噴火による新しい溶岩が迫っている。植生はほとんどついておらず、緻密な溶岩とその表層を構成するクリンカーが顕著に発達する。

ネア・カメニは1950年までの主な6回の活動により、溶岩流や溶岩ドームを形成し、しだいに成長していった。溶岩はデイサイトと呼ばれる種類の岩石だが(SiO₂含有量は64~68 重量%)、ミノア噴火とは異なる新しいマグマに由来すると考えられている。

この化学組成は昭和硫黄島の岩石に近いため、同様の軽石質の島が生まれそうだが、ネア・カメニ島の溶岩は発泡が悪く緻密なものばかりからなる。そのため島は全体として黒々としているのだ。

化学組成がよく似ていても脱ガスや結晶化のプロセスが異なると岩石の見た目が大きく変わることはよくあるが、その好例だ。そして興味深いことに、このような溶岩の特徴を生み出した地下のマグマは、パレア・カメニの時代から2000年以上もの間、化学組成をほとんど変化させずに現在に至っている。