10万回に1回のノイズはダメ!素粒子物理者が実験を正しいというための条件、ガウス分布「5シグマ」ってなんですか?

AI要約

ナノヘルツの重力波が検出されたことで宇宙の謎に迫る最新の宇宙論が紹介されている。

科学者がどの精度を満たすとナノヘルツの重力波を検出できるかについて、統計的な議論が示唆されている。

国際PTAチームが重力波検出を目指す中、検出精度向上のためには5シグマの達成が重要だとされている。

10万回に1回のノイズはダメ!素粒子物理者が実験を正しいというための条件、ガウス分布「5シグマ」ってなんですか?

時空の歪みとして捉えられた謎の重力波の存在。世界に衝撃を与えたこの観測事実から宇宙誕生に迫る最新の宇宙論を紹介する話題の書籍『宇宙はいかに始まったのか ナノヘルツ重力波と宇宙誕生の物理学』。

今回、検出された「ナノヘルツ重力波」は周期30年以上という重力波です。科学者はどのくらいの精度を満たすと、このような周期の重力波を検出したということができるのでしょうか。この記事では科学研究とノイズとの戦いに注目してみたいと思います。

*本記事は、『宇宙はいかに始まったのか』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。

パルサータイミング法による重力波観測行っている「国際パルサー・タイミング・アレイ(国際PTA)」プロジェクトですが、2023年のナノヘルツの重力波検出したという衝撃の報告を行いました。

このさい、彼らは「証明」という言い回しを避け、「証拠」といっています。これには理由があります。

統計的な議論では「標準偏差」という用語がしばしば登場します。そして、それは「シグマ」と発音されるギリシア文字で表記されます。

多数回の実験を行った結果としてある値が得られたとして、その値が出る事象が1シグマ以下だとしましょう。

この場合、この結果が得られる確率は、68パーセントです。ただし、この68パーセントという数字は、母集団が正規分布に従う場合に成り立ちます。

ここで、正規分布とは、ガウス分布ともよばれるもので、連続的な変数に関する確率分布のなかでも、データが平均値の付近に集積するような分布を表し、自然現象の中にあらわれるバラツキをうまく表現します。

このシグマの値は大きくなるほど、データの精度は高まります。

さきほどの5つのPTAチームの発表では、インドPTAの結果は比較的小さめの約2シグマの値でした。これは約95パーセントの確率です。大きな4シグマ程度の結果は、もちろん観測の継続期間がいちばん長いナノグラブが得ました。これは、約99.994パーセントの確率です。

約99.994パーセントと聞くと日常感覚からすれば、確実に起こるような確率ですが、実験物理学、とくに素粒子実験の分野では、まだ確実とは考えません。残りの0.006パーセントは、10万回繰り返すと約6回も起こることを意味するためです。

素粒子実験の分野で新しい粒子を発見したと主張するには、「5シグマ」が必要だとされています。

これは、確率が99.99994パーセントの世界です。これは、100万回繰り返して1回より少ない(つまり、起こらない)状況です。

国際PTAチームは、彼らのこれまでのデータを持ち寄り、より高い確率で重力波を検出することを目指しています。そのため、5シグマが当面の目標です。

また、観測対象となるパルサーの個数が増えることで、相関をとるペア数が増えるため、検出精度を高めることも可能になります。