「電動モーター飛行機」はなぜ登場しないのか?…モーターに負けず、熱機関がバリバリの現役でいられる理由

AI要約

熱機関とは内燃機関と外燃機関に分けられ、車のエンジンや蒸気機関などが代表的な例である。

蒸気タービンの効率が高い理由やガスタービンの利点、自動車におけるエンジンとタービンの選択理由について解説されている。

熱機関はさまざまな用途に応じて様々なしくみが採用されており、現代でも重要な存在である。

「電動モーター飛行機」はなぜ登場しないのか?…モーターに負けず、熱機関がバリバリの現役でいられる理由

物理に挫折したあなたに――。

読み物形式で、納得!感動!興奮!あきらめるのはまだ早い。

大好評につき5刷となった『学び直し高校物理』では、高校物理の教科書に登場するお馴染みのテーマを題材に、物理法則が導き出された「理由」を考えていきます。

本記事では、〈「基礎」が間違っているのに「応用」が成功してしまった理論…「熱機関」が現役でいられる理由〉にひきつづき、熱機関についてくわしくみていきます。

※本記事は田口善弘『学び直し高校物理 挫折者のための超入門』から抜粋・編集したものです。

熱機関は内燃機関といって、熱の発生が動力装置内部で起きている場合と、外燃機関といって熱の発生が外部で起きている場合がある。エンジンは内燃機関で、蒸気機関は外燃機関である。いまではすっかり見なくなってしまった蒸気機関に対して、内燃機関であるエンジンは現役なので内燃機関のほうが優れているというイメージが先行しがちだが、実際はどっちが優れているかは場合によるとしかいえない。

まず、車のエンジン。内燃機関と呼ばれるこの動力機構は立派な熱機関である。ただ、この内燃機関というしくみは現代ではほぼ車のエンジンでしか使われていない。最近はEVなどが普及してモーターに置き換えられてしまう未来も垣間見えており、身近にエンジンという内燃機関が存在しているという世代はいま生きている世代が最後かもしれない。

内燃機関はピストンの往復運動をクランクで回転運動に変換するという古典的な方法で熱エネルギーを仕事に変えている。これはできたばかりの蒸気機関も採用していた方法で非常に古典的な方法であり、現在はより効率がいいタービンにとって代わられている。

熱エネルギーを直接回転運動に変えることができるより現代的なしくみがタービンであり、いまはほとんどの熱機関がこちらを採用している。

蒸気タービンのしくみはきわめて単純で、簡単に言えば、熱エネルギーで水を沸騰させて作った高温高圧の水蒸気の勢いで羽根車を回して発電する。熱の発生は外部で起きるので、これは外燃機関である。モーターで風を起こすのは扇風機だが、逆に羽根を回して発電していると思えばいいだろう(発電機とモーターが本質的に同じしくみであることは『学び直し高校物理』電磁気学編のChapter14ですでに説明した)。

この蒸気を沸かして発電するという考え方は、蒸気機関車の昔から変わらない。すごく古典的に見える。実は、蒸気を使わず直接燃焼ガスの勢いを使って発電するガスタービンというものもあるのだが、こちらはあまり使われていない。なぜか?

実は、燃焼ガスのエネルギー密度は「薄い」のである。燃焼は当然、我々の周囲の大気を使って行われるが、大気の中でただ燃料を燃やしてしまうと空気は膨張してさらに薄くなってしまう。すると同じ体積に含まれるエネルギーは少なくなって力が弱くなってしまう。これを防ぐためにガスタービンでは燃焼前に一度空気を圧縮しなくてはならず、この圧縮にせっかく発電で得たエネルギーの半分以上を使う羽目になり、無駄が多い。

これに対して、蒸気タービンでは水蒸気を水に戻すにはただ冷却すればいいので、圧縮にエネルギーを使わないですむ。この決定的な差が蒸気タービンという水蒸気を使った非常に古い発電システムが生き残っている理由になっている。実際、蒸気タービンの効率(発生した熱の何%がエネルギーとして取り出せるか?)は43%にも達する。「なんだ半分以下か」と思うかもしれないが、内燃機関であるエンジンの効率も40%にすぎないので、効率が悪いから外燃機関が打ち捨てられたわけでは必ずしもないことがわかる。

それでは、なぜ、車はエンジンを使っていて、タービンを使っていないのか。これは車の場合は時速に合わせてエンジンの回転をこまめに変える必要があるからである。車は止まったり動いたりするので、動き始めはゆっくりと、高速道路を疾走する場合は高速で、エンジンが回転するほうが望ましい。

だが、タービンの場合、回転数は水蒸気やガスの「勢い」で決まってしまうから簡単に回転数を変えることができない。これに対してガソリンエンジンは、毎回ガソリンを空気にちょっとずつ混ぜて燃やしているので、その回数を減らせばいくらでも回転数を落とすことができる。この回転数を自由に変えられるというガソリンエンジンの利点が、自動車においてタービンが入り込めない障壁となっている。

ちなみにジェットエンジンもタービンを用いた熱機関である。ジェットエンジンはガスタービンで、燃料を燃やして作った高温高圧のガスを噴射し、その反動で推進力を得ている。こちらは内部で熱が発生しているから内燃機関である。

ガスタービンの機械的な構造は蒸気タービンと近いのに、内燃機関か外燃機関かという区別では袂を分かつのがおもしろい。このことからも内燃機関かどうかで効率の良しあしが決まるわけじゃないことがわかるだろう。

ここで蒸気タービンではなくガスタービンが使われている理由は、蒸気タービンにしてしまうと燃料のほかに水を積まないといけないので飛行機が重くなってしまうからだ。せっかく効率がいい蒸気タービンを搭載しても燃料のほかに水も積まなくてはいけないのでは、せっかくの推進力の大部分を水の運搬に使う羽目になってしまう。

こんなふうにひとくちで熱機関と言っても用途ごとに異なったしくみの熱機関が採用されているのが現状だ。人類はまだ当分の間、熱機関のお世話になることだろう。