そのイライラ、睡眠不足ではないですか…怒りが止まらなくなるメカニズムがわかってきた

AI要約

睡眠不足が脳機能に与える影響について述べられています。睡眠不足による怒りや不安の増加、注意力の低下、感情の不安定さなどが説明されています。

睡眠不足がうつ病や双極症の症状にどのような影響を与えるか、また睡眠リズムの整え方についても触れられています。

最新の研究により、睡眠不足が扁桃体の過剰反応を引き起こす仕組みが説明されており、前帯状皮質のブレーキ機能が低下することが示唆されています。

 こんにちは。精神科医で睡眠専門医の三島和夫です。睡眠と健康に関する皆さんからのご質問に科学的見地からビシバシお答えします。睡眠不足の時にささいなことでイラッとした経験はないでしょうか? それは単に疲労のためだけではなく、睡眠不足によって怒りや不安を抑える脳の機能が低下することが一因であることが分かってきました。しかもごく短期間で睡眠不足の悪影響は生じます。

 睡眠不足は脳機能にさまざまな影響を与えます。記憶力の減退、仕事の能率低下などのほか、注意力が低下するためポカミスが増えたり、時には大きな事故の原因になったりします。

 これらに加えて、睡眠不足のときには感情が不安定になることが知られています。

 例えばうつ病では、抑うつ気分や意欲減退などのうつ症状が出現するのに先だって眠れなくなることが多いですし、双極症(躁うつ病)では夜勤による徹夜や睡眠不足をきっかけに急激に多弁や多動、爽快気分などの躁状態に陥ることがあります。

 逆に、睡眠リズムを整え、睡眠時間を確保することはうつ病や双極症の症状改善や再発防止に効果的です。

 また、健康な人でも、わずか数日の睡眠不足や睡眠リズムの乱れによって不快気分が生じることが明らかになっています。

 健康な若者を対象にしたある研究によれば、5日間にわたり1日8時間眠った場合に比べて、4時間しか眠らなかった場合には抑うつ気分や不安感が強まることがわかりました。

 また、この研究では睡眠が充足している時と睡眠不足の時に、さまざまな表情の人の写真を被験者に見てもらい、頭の中の情動に関わる神経の働きがどのように変化するか、磁気共鳴機能画像法(fMRI)という方法で調べています。

 その結果、恐怖の表情など不快な画像を見た後に扁桃体(へんとうたい)(強い情動を処理する脳部位)が過剰に活動していることが分かりました。

 扁桃体が過活動になると不安が高じ、血圧の上昇や動悸(どうき)が生じ、時にはパニック症状が出現するなど心身に大きなストレスがかかります。そのため、脳内には扁桃体の暴走を抑えるためのセーブ機構があり、前帯状皮質と呼ばれる脳部位がブレーキ役を果たします。

 前帯状皮質は扁桃体と神経繊維でつながっていて、不快な情動刺激があっても扁桃体が一定レベル以上に過剰反応しないように前帯状皮質が抑え込んでいるのです。

 ところが先の研究で、fMRIを使って睡眠不足時の脳機能を調べたところ、前帯状皮質によるブレーキ機能の働きが低下していたのです。実験に参加した若者の中でも睡眠不足の影響には個人差があり、ブレーキ機能が大きく低下している若者ほど不安や抑うつの度合いが強くなることも分かりました。さらにその後、別の研究で、わずか2日の睡眠不足でもブレーキ機能が低下することも明らかになりました。