「1995・1・17に生まれた命」阪神・淡路大震災 100年先へ語り継ぐ絵本プロジェクト始動!

AI要約

1995年1月17日に生まれた男性をモデルにした絵本プロジェクトが始動

中嶋さんが神戸で絵画教室を主宰し、震災をテーマに子供たちに教えている

絵本は2025年に出版予定で、クラウドファンディングで資金を募集中

「1995・1・17に生まれた命」阪神・淡路大震災  100年先へ語り継ぐ絵本プロジェクト始動!

 阪神・淡路大震災が起きた1995年1月17日に神戸で生まれた男性をモデルにした絵本を制作するプロジェクトが始動した。

 呼びかけたのは、神戸市東灘区で絵画教室「アトリエ太陽の子」を主宰する画家・中嶋洋子さん。教室に通う子どもたちが挿絵を担当する。

 絵本は、阪神・淡路大震災から30年を迎える来年(2025年)1月17日を前にした出版を目指している。

 中嶋さんは大阪府岸和田市出身。海と山にかこまれた美しい街と文化度の高さ、流行の最先端をゆく神戸に引き込まれて移り住んだ。

 そして、この神戸で毎年、絵画を通して生命の大切さを教える「震災・命の授業」を続けている。

 震災で中嶋さんが住む東灘区・住吉の自宅マンションやアトリエ、絵画教室は大きな被害を受けた。幼い教え子2人が亡くなったこともショックだった。

 ぼう然とした日々を過ごしていた中嶋さんだったが、「震災を経験した者の使命として、次世代を担う子どもたちへ語り継いでいこう」と思うようになった。

 中嶋さんがアトリエで取り組む「震災・命の授業」のサブタイトルは、“もしも、あの日のあの時、あの場所に、僕が私がいたならば”。

 絵画教室で描いた子どもたちの絵をバックに、中嶋さんは、「震災・命の授業」生きたくても生きられなかった6434人の存在を語る。

 中嶋さんは、2011年の東日本大震災の被災地にも出向いている。

 これまでに、のべ75校・5500人以上の子どもたちのために、絵画ワークショップ「命の一本桜プロジェクト」を続けている。

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 絵本のモデルは、神戸市兵庫区の中村翼さん(29)。

 1995年1月17日 午前5時46分、翼さんの両親はマンションで激しい揺れに遭った。出産予定日が間近になっていた翼さんの母親の上に父親が覆いかぶさり守った。そして、近くの小学校の運動場に避難した。

 厳しい寒さの中、母親が産気づいた。父親が車に乗せ病院へ向かおうとしたが、震災直後の混乱の中、大渋滞で進まなかった。その時、父親は交通整理中の警察官に涙ながらに「子どもが産まれそうなんです」と訴え、迂回路に誘導してもらった。病院に何とかたどり着いたが、停電で分娩室は機能していなかった。

 父親と看護師が懐中電灯を照らし、その灯りの中、午後6時21分に翼さんは生まれた。

 絵本では、震災発生から翼さんの誕生までのストーリーが綴られている。

「お父さんは、お母さんとおなかの中にいるぼくを必死で守ってくれたんだって」

「病院も地震で壊れて電気も水も止まった。お父さんは懐中電灯でお母さんを照らしていたんだって」

「夕方6時21分、ぼくはようやくうまれたんだって。お父さんもお母さんもたくさんたくさん泣いたらしいよ。うれしくて」

 文体は翼さんによる一人称、「ぼく」が語るスタイル。

 翼さんはのちに神戸学院大学で学ぶ。恩師の舩木伸江教授(現代社会学部・防災教育)が、「翼さん誕生までのストーリーをアトリエの子どもたちと一緒に、1.17を語り継ぐ絵本にしませんか」と、中嶋さんに話を持ちかけたのがプロジェクト誕生のきっかけだった

 子どもたちが自由に描いた絵を組み合わせて、物語の場面に使用する9枚の挿絵は完成した。「子どもたちには想像力と画力がある」。

 無限の可能性を秘めた子どもたちを心からリスペクトする中嶋さんの眼はやさしい。

 「今ある命が当たり前、快適な生活が当たり前じゃない」。中嶋さんは語りかける。子どもたちにとって、阪神・淡路大震災も東日本大震災も歴史的な出来事にすぎなかった。

 しかし、2025年元日に起きた能登半島地震が、自然災害が時と場所を選ばず起きるのだという現実と向き合わせた。

 これまでに阪神・淡路大震災を題材にした絵本は数多く出版されている。

 しかし中嶋さんたちは、失われた命の尊さを訴えるものでだけではなく、震災当日、さまざまな優しさに包まれて誕生した命があったというメッセージを発信したい、との思いがある。

 そして、「子どもたちが、次の世代の子どもたちに伝えることができる仕組みを作りたい」と意気込む。

 中嶋さんらは絵本の製本・出版に向けてクラウドファンディングで資金を募っている。

「多くの方に手に取ってもらい、語り継いでもらいたい。子どもたちが2年がかりで描き上げた絵を良い状態で、良質の紙で製本したい。100年後に残せる絵本にするために」という思いがある。

 目標は200万円。ひとまずクリアできたが、大きな支援で、より多くの人に絵本を読んでほしいと願う中嶋さん。

 原材料費の高騰も深刻だ。「手探りの中での絵本出版、先立つものが…」と現実の厳しさをひしひしと感じている。(クラウドファンディングは2024年9月27日・午後11時まで)。問い合わせはアトリエ太陽の子(078-858-7301)。

 また、クラウドファンディングサイトREADYFOR(レディーフォー)の特設ページでも受け付けている。