20歳の女はバイト仲間と飲み明かし車を運転した。蛇行、信号無視…対向車線のバイクとぶつかり目が覚めた。甘い考えで背負った「飲酒ひき逃げ」の重い十字架〈法廷傍聴記〉

AI要約

20歳の女性が飲酒運転でバイクに衝突し、男性に大けがを負わせた事件について裁判が行われた。女性は事故後、逃走し、悪びれる様子もなかった。母親は深く娘を叱責し、被害者に謝罪した。

検察は悪質な行為として懲役2年を求刑。裁判官は女性の安易な意思決定を問題視し、懲役2年の判決を下した。

判決後、母親は裁判官に感謝の意を示し、20歳の女性は母親とともに法廷を後にした。

20歳の女はバイト仲間と飲み明かし車を運転した。蛇行、信号無視…対向車線のバイクとぶつかり目が覚めた。甘い考えで背負った「飲酒ひき逃げ」の重い十字架〈法廷傍聴記〉

 被告の女は長い髪を一つに束ね、黒色のリクルートスーツで出廷した。終始落ち着いた様子だったが、時折口にする、友達と話しているような言葉遣いからあどけなさがうかがえた。

 ある日の早朝、酒を飲んだ後に車を運転した。居眠りをして対向車線にはみ出し、バイクを運転する男性に衝突。鎖骨を折るなどの大けがを負わせ、自動車運転処罰法違反(危険運転致傷)と道路交通法違反(ひき逃げ)の罪に問われた。

 当時20歳の女は看護を学ぶ専門学生だった。居酒屋でアルバイトを終え、仲間と飲み屋をはしごし、4時間で10杯以上酒を飲んだ。最後の店を出ると、ふらつきながら車を止めている駐車場に1人で向かった。

 ドライブレコーダーには、繰り返される危険な運転が記録されていた。蛇行、信号無視、低速走行、大回り。青信号で発進せず、後続からクラクションを鳴らされる様子もあった。

 記憶がおぼろげな女とは裏腹に、男性は恐怖の瞬間を鮮明に覚えていた。「なぜ対向車が正面に。ぶつかる-」。時速約50キロで向かってくる車と衝突し転倒した。近くの人が駆け寄ってきたが、すでに女の車はなかった。女は衝撃で目を覚ましたが「後で何とかなるだろう」と止まらなかった。

 女は帰宅後、「事故った」「ばれた」「やばい」などのメッセージを友人に送り、その後削除した。弁護人からこの行動について聞かれると「記憶にない」などと弁明。「見られたらまずいと思って消したんだと思う」と曖昧な記憶をたどりながら説明した。

 「飲酒による大きな事故を見たことはないか」と検察官から問われた。少し考え込んだ後、「人ごとのように見ていた。運転しないという選択肢を取っていれば」と声を落とした。

 母親は、警察が家を訪ねてきて娘の犯行を知った。慌てて寝ていた娘を起こし問い詰めた。「バイクにぶつかったかもしれない」と答える娘を前に、生きた心地がしなかったという。

 事故後、母親は電話で泣きながら男性に謝罪した。男性は「お母さんがかわいそう」という理由から厳しい処罰は望まなかった。

 検察側は、逃走し、友人にメッセージを送る行為などを悪質だと指摘。「悲惨な事故が絶えない飲酒運転の根絶は国民の総意」と述べ、懲役2年を求刑した。

 裁判官は、事故を起こしたにもかかわらず「何とかなるだろう」と考え帰宅したとして、「安易な意思決定への非難は免れない」と結論付けた。3年の執行猶予を付けたものの、検察と同じ懲役2年とした。

 判決後、母親は退廷する裁判官の背に深々と一礼した。女は母親と男性の思いをどう受け止めたのか。21歳になったばかりの女は、涙を拭く母親の後ろに付いて法廷を後にした。