歴然とした差は「目よりも先に手が気づく」有元葉子を虜にする「市原さん」と「榧」の箸

AI要約

日本のプラスチック消費量が世界2位で、ペットボトルだけでも年間234億本消費されているが、料理家の有元葉子さんはプラスチック製品をほとんど使用せず、京都の手作りお箸にこだわっている。

有元葉子さんは、お箸が和食にとって特別で、料理だけでなく料理する際にも欠かせない大切な道具だと考えており、市原さんの手作りお箸を長年愛用している。

市原さんのお箸は一本一本が手作りであり、用途に合わせて形が異なる。しかし、後継者が見つからないという事情もあり、この大切な伝統工芸が失われる危険性がある。

歴然とした差は「目よりも先に手が気づく」有元葉子を虜にする「市原さん」と「榧」の箸

 国民1人当たりの容器包装などのプラスチックの発生量がアメリカに次いで世界で2番目に多く、世界第3位のプラスチックの生産国である日本。

ペットボトルだけでも年間234億本、日本人1人当たり187本も消費している。

 だが、料理家・有元葉子さんの台所には、プラスチック製品はほとんどなく、ペットボトル入りの飲み物も皆無である。その理由を有元さんは、「プラスチックはぞんざいに扱っても壊れませんが、劣化したら直すことはできないし、使い込む楽しさもないでしょう」と話す。

 自身が使う台所道具についてインタビューで語る、有元さんの連載。

前編「有元葉子のすっきりと美しい台所で『見当たらないもの』と『簡単には捨てないもの』」では、愛用する土鍋やすり鉢には、味や使い勝手のよさだけでなく、使って育てていく楽しみがあり、それは料理をしている時間そのものを楽しむこと。また、欠けたりひびが入っても、本来の役目を終えても、簡単には捨てない日本人の知恵と工夫について語っていただいた。

 後編となる本記事では、長年使い続けている調理用の箸についてお聞きした。多種多様な箸がある中で、なぜそんなにもこだわるのか、どこが他と違うのか、詳しくお伝えする。

 ※以下、有元葉子さんの言葉。

 窯元が作るのをやめてしまったすり鉢や、原料の鉱物の不足で作るのが困難になるかもしれないという土鍋。日本の大切な台所道具の存続には危機感を持ちますが、今や土鍋やすり鉢だけにとどまらないのかもしれません。

たとえばお箸。

うちでは料理に使うお箸は京都の市原さん(御箸司 市原平兵衞商店)と決めています。焼き物箸、揚げ物箸、天ぷらの粉を溶く箸……実はこういったお箸も、この世から消えてしまうかもしれないのです。

 お箸は和食にとって、とても特別なものだと思います。

他の国でも調理中に瞬間的に使うことはあるのかもしれませんが、混ぜたり、焼いたり、揚げたり、こんなにお箸で料理する国はないでしょう。

ヨーロッパの調理場で盛り付けにピンセットを使っているのを見ましたが、お箸に慣れている私には使いにくそうに見えてしまいます。

思わずお箸を「どうぞ」と渡したくなりますが、日常的に使う私たちとは使い勝手も違うのでしょうね。

そう考えると、私たち日本人にとってお箸とは、食べるだけでなく、料理したり、盛ったりする時にも欠かせない、とても大切なものだと感じます。

 市原さんのお箸は、一本一本が手作りです。どれももう何十年も使っているので、先が短くなってしまったものもありますが、使い勝手は変わりません。

長くても持ちやすくて、長時間使っても疲れません。軽いし、手触りも気持ちいい。

見た感じちょっと似たような箸がありました。箸入れに一緒に入っていたために、うっかりそちらを手に取った瞬間、「あら、なにこれ?」。

目よりも先に手が気づきます。それほどに歴然とした差があるのです。

 お箸の形をよく見ると、用途に合わせて形が違うのに気が付きます。

揚げ物箸は八角です。軽く挟んでも落ちないよう、丸ではなく角張っています。でも六角では角がきつくて、握っている手が痛くなってしまう。だから八角なのです。

一日中揚げ場に立つ職人さんの声を聞きながら、たどりついた形なのでしょう。

せっかく築いたそんな技術も、いつまで守れるかわからないそうなのです。後を継ぐ方が見つからないとおっしゃっていました。

今ある箸を大事に使わねばと思います。